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悪霊シリーズ第2巻 悪霊がホントにいっぱい
作者:    出处:    发表时间:2007-09-20    浏览次数:     

【悪霊がホントにいっぱい!】
              小野不由美

 

プロローグ


 もしも、あなたの家に幽霊《ゆうれい》が出るとする。
 やっぱりあなたは困《こま》るよねぇ。気味は悪いし、幽霊が出たりするといろいろと不都合《ふつごう》なこともあるもんね。
 あなたは、とうぜん、なんとかしたいと思う。
 どうする?
 あたしに言わせるなら、あなたは山手線《やまのてせん》に乗るべき。もしもあなたが東京《とうきょう》の人間じゃないんだったら、まず東京駅だか上野《うえの》駅だかに行かなきゃならないけどね。
 山手線に乗ったら渋谷《しぶや》で降りる。べつに半蔵門《はんぞうもん》線でも銀座《ぎんざ》線でも、東横《とうよこ》線でも、井《い》の頭《かしら》線でもかまわない。とにかく渋谷に行けばいい。着《つ》いたら、かの有名なハチ公前へ。そしてあたりの優《やさ》しそうな人をとっつかまえて、「道玄坂《どうげんざか》はどこですか」と聞こう。
 道玄坂がわかったら、坂をのぼる。しばらく歩くとレンガ色のアンティークなビルが見えるはず。一階が広場みたいになったビルだよ。
 ――あったね?
 ビルに着いたら、噴水《ふんすい》のわきのエスカレーターで二階へあがる。一階にある喫茶店やブティックに眼をくれてはいけない。なかなかオシャレなお店ばかりで、つい入りたい気分になっちゃうけど。
 二階に着いたらあたりを見まわしてみよう。ブルーグレーのドアが見えたかな?
 そのドアには上品な模様いりのすりガラスがはまってて、そこに金色の繊細な字体で「SPR」というロゴがはいっている。その下に同じく金色で、「Shibuya Psychic Research」とあるはず。
 まっすぐドアをめざそう。
 え、喫茶店じゃないのかって? とんでもない、喫茶店じゃないよ。喫茶店では、幽霊に困っているあなたの役にはたたないもんね。
 それに、喫茶店とまちがえて飛びこむと、冷たい扱いを受けることになっている。場合によっては、「英語が読めないんですか?」とイヤミを言われることもある。
「Shibuya Psychic Research」。――すなわち、「渋谷サイキックリサーチ」。
 わかる?
「サイキック・リサーチ」は「心霊現象の調査」。「渋谷サイキック・リサーチ」というのは、渋谷にある心霊現象の調査事務所、ということなのね。所長が渋谷という名字だから、ひょっとしたら、渋谷さんちの心霊現象調査事務所、という意味なのかもしんない。まぁ、どちらにしても、要はよく電柱に張ってあるやつよ。
『憑《つ》きもの、幽霊《ゆうれい》、よろず相談申し受けます』
 幽霊を追い払ったり、憑きものを退治したりするやつ。
 さて、あとは勇気を出してドアを開《あ》けるだけ。
 中は、広い上品なオフィスになっている。ふつうは、あたしがお客を出迎えるんだけど、そうでない場合もあるよ。あたしはアルバイトだから、常にいるというわけじゃないの。
 あたしがいないときは、背が高くて痩《や》せててアイソのない男の人が迎えてくれる。その彼さえいなくて、誰《だれ》も出迎えてくれないことも、たまにはある。そういう時はたいがい、正面の応接セットに、そーぜつに顔のいい男のコがふんぞりかえっている。年は十六、七。若いからといって、彼をアルバイトとまちがえることだけは、ぜったいにしちゃだめだぞ。彼はおそろしくプライドが高いので、そういうまちがいを犯した人間を断固として許さないのだ。
 なんたって彼は、天上天下唯我独尊《ゆいがどくそん》的ナルシスト。略してナルちゃん。
 ナルの機嫌《きげん》そこなわなければ、あなたは安心して相談ができる。きっと彼は、あなたの悩みを解決してくれることだろう。
 ……気が向けば。

「渋谷サイなんとかというのは、ここでいいのよね?」
 ドアを開けてはいってきたのは、みなりのいいお金持ちっぽいご婦人だった。
 あたしはこの日バイトの日で、しかも休憩時間中でもなく、すなわちオフィスにいたので、オバサンはあたしに出迎えてもらえた。
「はい。ご相談ですか?」
 あたしは営業用の笑顔をつくる。彼女の眼はしかし、立ち上がったあたしを素通りして、この日はたまたまソファーで本を読んでいたナルのほうに向いた。
「ちょっと、ぼうや」
 ……知らないということは危険なことだ。オバサン、そいつに向かって「ぼうや」なんて言うのはやめたほうがいいぞ、あぶないから。虎《とら》に向かって「タマ」と呼ぶがごとし。
 あたしは、
「失礼ですが、どんなご用件ですか?」
 ていねいな声とさわやかな笑顔で聞いてやったのに、オバサンはチラッと視線を投げただけであたしを無視した。
 ……ほほう。
 あたしを無視したまま、ツカツカとナルによって、
「ちょっと、ぼうや、この事務所のひと?」
 ナルは振り向かない。「ぼうや」と呼ばれて振り向くはずがない。
 あたしはけなげにも、オバサンに優しく声をかける。
「あの、失礼ですけど」
 オバサンは、またも無視。
 ……いいかげんにしろよっ! いい年をして礼儀も知らんのか、こいつっ!
「あの、ご用件でしたら、わたしがうけたまわりますが」
 怒鳴《どな》ってやりたいが、そこはガマン。あたしは、丁寧《ていねい》な声で聞く。オバサンはあたしを振りかえって無遠慮《ぶえんりょ》な眼でジロジロ見た。そうしてフンと鼻で笑う。
 ……こ、こいつーっ。
 それからナルに、
「ちょっと、ぼうや、わたしはお客なのよ!」
「お客……?」
 ナルのどこか投げやりな冷たい声。視線を本に落としたまま。
「そうよ。返事くらいしたらどう? カンジ悪いわねぇ」
 ……どっちが?
 ナルはそっけない声を出す。
「おひきとりを」
「――なによ、わたしは客だと言ってるでしょ?」
「最低限の礼儀も知らないような下品な客の依頼を受けるほど、仕事に困《こま》っていませんから」
 ……えらい。よく言った。
 真っ赤になるオバサンの顔。
「失礼な……日 責任者を出しなさい! ひとこと言ってやるからっ!」
 ……けっ。おろかものめ。
 ナルがスラリと立ち上がって、オバサンのほうにむきなおる。冷たいまなざし。それだけでどんな人間をも黙らせる威圧感がある。漆黒《しっこく》の髪と漆黒の眼、上から下まで黒ずくめの彼は、美貌《びぼう》の悪魔か吸血鬼みたいで。
 彼は静かな声で、
「僕《ぼく》が所長の渋谷《しぶや》ですが」
 オバサンが、驚きあきれたように口をパクパクさせた。
 所長は軽蔑《けいべつ》の眼。色の薄い唇《くちびる》に皮肉っぽい笑み。
「おひきとりを」
 言うと同時に、隣にある資料室に声をかける。
「リン! お客様におひきとり願いなさい」

 無礼なオバサンは、のっぽでかぎりなく無愛想《ぶあいそう》な助手のリンさんにムリヤリ送り出されてしまった。
「ナル、いいの?」
 あたしは聞く。
「なにが」
 彼はあたしのほうに眼をやって、よく通る静かな声で言う。
「いまのオバサン、お金持ちそうだったよ」
「関係ない」
 ナルの言いぶんはあくまでもそっけない。
「それより、麻衣《まい》。お茶」
 所長は目線を本にもどして、短くおっしゃる。
 お茶ぐらい、てめーでいれろよなー。
 思ったけど、口にするのは危険だ。今日はナルの機嫌《きげん》が悪い。本日はお客がひっきりなしで、しかもその全部がひどい客。
 さっきのオバサンのように無礼なやつとか、何をカンちがいしたのか「浮気の調査をしてくれ」だの、「腰痛を直してくれ」だの、「結婚相手の運勢を見てくれ」だの。新興宗教とまちがえて人生相談をしていくやつもいて、唯一《ゆいいつ》まともな依頼が、「娘が最近不良になった。なかに憑《つ》かれたにちがいないから、落としてくれ」。
 その度《たび》にあたしは、グチャグチャと説明しなきゃいけない。ここは心霊現象の調査事務所であること。幽霊《ゆうれい》やなにかが関係すると思われる不可解な事件を、科学的に調査するのが目的の団体なのだということ。
 ええ、探偵事務所ではありません。
 とんでもない、心霊治療はやっていません。
 すいません、占いはやりません。
 いえいえ、宗教団体ではありません。
 ……いいかげんにしてよね。ナルでなくたって怒るってば。
「どーぞ」
 テーブルに紅茶を置く。
 ちなみに、このオフィスで「お茶」と言ったら紅茶のことだ。緑茶はほとんど消費されない。
「ん……」
 
 ナルは顔もあげない。「ありがと」くらい言ってくれてもいいんじゃない? あたしは、ちゃんと心をこめてお茶をいれてるんだからねっ。
 そうなの(急に女の子らしい口調になっちゃうよ、あたしは)、心をこめてお茶をいれてるの。どうやらあたし、この所長さんに……らしいのよね。
 あたしの仕事は雑用係。コピーをとったり、お茶をいれたり。たいして彼のために役立つことをしてるわけではない、という気がする。
 だからこそ、お茶をいれるときには気合をいれてるのよ。その時々の状況を見て、今みたいに機嫌《きげん》が悪いときには、アッサムにしようとか、すごく気をつかってる。なのに、ぜーんぜんわかってくれないんだから。

 あたしがナルに出会ったのは、この春のことだ。舞台はあたしの学校。――と言っても、べつに彼が転校してきたとか、そういうんじゃない。彼は――「渋谷サイキック・リサーチ」の所長さんは、不吉なウワサのある旧校舎を調査に来たのだ。
 ひょんな縁で、あたしはこの事件のときナルの助手をつとめた。それで、今もこうして彼の事務所にアルバイトとして来てるわけなんだけど。
 最初はヤなやつだと思ったのよね。顔はいいけど、とにかく性格が悪い。口は悪いしプライドは高いし、手におえない。でもさ……。
 レンアイに理由なんていらないのよね。困《こま》ったもんだ。
 もちろんナルは、あたしの気持ちなんかご存じでない。あたしのことも、単なるアルバイトとしてしか見ていない(たぶん)。
 ひょとしたら、ナルは女の子に興味なんてないのかな。そんな気もする。
 なにしろ普通の男の子とはちがうからなー。
 まず、十六歳にして心霊調査事務所の所長でしょ。本来ならあたしよか一つ上、高校二年生のはずなんだけど、どう考えても学校に行ってるようすがない。そりゃ、ちゃんとした(?)仕事がすでにあるんだから、いまさら学歴なんか関係ないだろうとは思うけど。 しかもどうやら、仕事いちずの性格のようで。TVは見ない。映画は見ない。小説は読まないし、もちろんマンガだって読まない。音楽だって、ジャンルを問わずまったく聞かない。
 んじゃ、仕事のないときは何をしてるかというと、まぁだいたい本を読んだり、分厚《ぶあつ》いコピーの束を読んだりしている。もちろん、心霊関係の、それも横文字の専門書よ。
 趣味と言えば旅行と手品らしい。
 これがまた変なんだ。旅行書やロードマップや、そんなものを山のように持ってる。ま、仕事であちこちを飛びまわるとはいえ、尋常《じんじょう》でない数だ。ときおり、地図やなんかを広げて指先でたどりながら、じいっと考えこんでいたりする。でもって、ときどきフラッと短い旅行に出るんだけど、観光などしているようすがない。なにしろ、京都に行っておきながら、清水寺《きよみずでら》も金閣寺《きんかくじ》も嵐山《あらしやま》も見てこないんだから。
 手品だって、あたしたちに披露してくれるかと言えばそんなことはない。ときどきトランプなどをいじってるのは見かけるけど、他人に実演して見せているところにお眼にかかったことがない。
 ……ね、変でしょ?
 な

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责任编辑:Mashimaro

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