咖啡日语论坛 咖啡日语学习资料 咖啡日本新闻 咖啡日语工作 咖啡日语博客 咖啡日语商场 联系我们
资料首页 语法问题 词汇学习 商务日语 日语考试 学习精华 听力训练 日本文学 翻译习作 其他文章 专题 搜索
现在位置:首页 >> 日本文学 >> 日文轻小说 >> 悪霊シリーズ第2巻 悪霊がホントにいっぱい
最新文章
普通文章  2009年JLPT日语能力考试最新改革动向
普通文章  日文小说合集
普通文章  性格
普通文章  财务常用关联日语
普通文章  料理熟語(百語)
普通文章  ビジネス日本語専門用語(3)
普通文章  服饰首饰词汇
普通文章  拟声拟态词
普通文章  新词语
普通文章  通信传达类词汇
 
     
悪霊シリーズ第2巻 悪霊がホントにいっぱい
作者:    出处:    发表时间:2007-09-20    浏览次数:     

。散らしたところで、すぐにまたもどって来ちゃう」
 綾子の抗議に、
「いいんだ。そうやって女のまわりに群がる霊を少しでも減らせれば。一時的にでも。ジョンは居間に来てくれ。いちおう、居間でも霊を散らせるかどうかやってみる」
「はい」
 うなずいてナルが立ち上がる。それをぼーさんが制す。
「おい、子供らをおっぱらうてはずはわかったが、肝心《かんじん》の女の除霊は誰《だれ》がやるんだ?」
 ……そうか。ぼーさんと綾子が家の外。ジョンが中でも、ジョンひとりの手には負えないだろう。ましてやナルは、霊を散らすだけでいいと言う。
「まさか、ナル、おまえさんか?」
 ナルの不敵なわらい。そうして軽く手をたたく。
「始めよう」

 午前四時。
 家の壁《かべ》は護符《ごふ》だらけになった。やつらが居間から外に出られないよう、ジョンが居間の壁に聖水で十字を書く。いつだか礼美《あやみ》ちゃんにほどこしてあげた、オマジナイ。やつらはしばらくの間礼美ちゃんを見つけられずに、家中をあばれまわった。結局突破されたけど。
 そうしてその外。ぼーさんと綾子とで作った護符の山。壁一面に。礼美ちゃんが泊《と》まっているホテルと同じように。あれだって結局は突破されたけど。
 護符の山は家の一角だけにない。鬼門《きもん》の方角はやつらに解放されている。
 ぼーさんと綾子がそこに構える。
 ジョンとナルは居間へ。リンさんが機械を守る。
 あたしと真砂子はベースにいるようナルに言われたのだけど、肝心《かんじん》の真砂子が一緒に居間に行くと言ってきかない。
「麻衣、少し危険になるが、原さんのそばについててくれ。
 万が一、いつかのように憑依《ひょうい》されて妨害されるとめんどうだ」
 ナルに言われて、あたしも居間へ。真砂子のわきにしっかりひかえる。
 もはや夜明けが近い。空にはまだ、光の色はないけれども。
 ナルはどうするつもりなのだろう。女は子供を――富子を探している。富子がいなくなって、それが心に残って橋の向こうに行けないでいる。富子が見つかれば、女はよろこんでこの世を離れるだろう。――でも、どうやって?
 富子はこの場にいない。この世のどこにもいないかもしれない。

「ジョン」
 ナルにうながされて、ジョンがうなずく。
 見なれた手順で静かに祈祷《きとう》を開始する。
 間もなく、家自体が身震いするように、ギシッと家鳴《やな》りがした。
 始まった……。
 あたしは眼をさまよわす。何の影もない。何も見えない。ただ、ギッと床がゆがむ音。カタカタと床の上を震えが走る。壁をたたくノックの音。どこかで者をぶつけるような音。真砂子は青い顔をしている。こわいんだったら、ベースにいればいいのに。
「だいじょうぶ? ベースにもどらなくていい?」
 あたしは小声で話しかける。真砂子は首を振る。
「いいえ……。ここにいますわ」
 そんなにナルのそばにいたいわけ?
 あたしは思わず、イヤミのひとつも言いたくなる。あたしだってこわいんだからね。井戸にひきずり落とされるような悲惨な経験は、一度でじゅうぶん。
「除霊《じょれい》にはふたつありますの……」
 真砂子は、おびえた眼を周囲にやりながら口を開く。
「浄霊《じょうれい》と除霊。浄霊は霊に語りかけて、こだわりを解いてやるのですわ。橋のあちらに行けない原因を取り除いてあげますの。……でもこれは、霊媒《れいばい》にしかできない……。
 ナルは霊媒じゃないのですもの、除霊をするつもりなのですわ」
「除霊って?」
「力で霊を吹き飛ばすの……。
 悪い人間が……いたとしますでしょ? 説得して会心させるのが浄霊。ウムをいわさず殺してしまうのが除霊ですの。
 除霊はしてほしくありませんわ。すくなくともあたしの前では――」
 真砂子はこの世の外を見ている。霊媒である彼女には霊も人間も、同じような存在なんだ。人が死ぬのはいや。霊が滅《ほろ》びるのもいや。それは真砂子にとって同じこと。 ……よくはわからないけど、そんなものかもしれない。
 あたしと真砂子が小声で話し合っている間にも、部屋に満ちた騒音は大きくなる。
 床がきしむ。そして足音。大勢の子供が走りまわる音。
 冷気が床をはって、白いものがただよい始めた。煙のようなもの。部屋をおおう白いもや。かすかに人間の輪郭《りんかく》。
 聞こえるはずのない悲鳴が、聞こえる気がする。苦しげな叫び。耳を打つ悲しみ。
 ジョンの祈祷《きとう》に、逃げまどうように揺《ゆ》れて流れる。
「……!」
 誰《だれ》かがあたしの肩をたたいた。振りかえっても誰《だれ》もいない。髪を引っ張る手。
 ジョンも、何かに驚いたよう身じろぎをする。その度《たび》、聖水のびんを振って、しずくを降らす。近寄った霊を散らしているんだ。
 ドンッと部屋が抵抗する。
 床がしなって、体が揺れる。稲妻のように壁《かべ》に亀裂が走った。
 そして激しい縦揺れ。
 ……大きい!
 宙に投げ出されて、あたしは思わず声をあげる。ジョンたちまでもが放り出されて姿勢を崩《くず》す。
 誰《だれ》かがあたしの腕をつかむ。あたしはそれにあらがう。有無を言わさず引き寄せる力。あたしは床に引き倒される。
「麻衣さん!」
 ジョンが振りかえって、あたしのほうに向かって聖水をまく。体を押さえこんでいた強い力が途切れる。
 部屋にたちこめた、煙とももやともつかないもの。
 ジョンは祈祷《きとう》をゆるめない。しかし、煙のようなものが、切れてちぎれるだけ。
「原さん! どうです!?」
 ナルが真砂子を振りかえる。
「逃げまどっていますわ。ずいぶん数が減りました……。居間の外へ逃げて行きます」
 そのあと、泣きながら、という声はあたしにしか聞こえなかったろう。
 部屋にうごめく子供たち。みんなこの家に捕らわれて。どこにも行けず、なつかしい自分の家に帰ることもできず、さびしくて悲しくて、耐えかねて仲間を呼んで。そのうえ祈祷に苦しめられる。
 ……真砂子の気持ちが少しだけわかる。子供たちがかわいそうだ。さびしいまま、悲しいままナルに吹き飛ばされてしまうんだろうか。
 あの女だってそうだ。娘をなくして、悲しくて。いなくなった富子ちゃんを探して、探して、ここに悲しい檻《おり》を作った。
 だからと言って、このままにはしておけない。生きている礼美《あやみ》ちゃんを渡すわけには、絶対にいかない。こんな悲しい子供たちの仲間にするわけには。
 居間に満ちた煙が少し薄れた。子供たちが減っている証拠。ジョンとぼーさんと綾子。三人がかりで家からはじきとばされて。
「子供たちを浄霊《じょうれい》できないの?」
 あたしの声に真砂子は首を振る。
「ムリですわ……あの女がいるかぎりは。子供たちをとらえてる女を浄霊しないことには……」
 ハッと息を飲んで、真砂子は急に口をつぐんだ。おびえたように見開いた眼を、床に口を開けた穴に向ける。
「……出てくる……」
 声と同時に、ふと音がやんだ。
 
 薄い薄い煙《けむり》が無言でたゆたう。
 あたしたちの息づかい。
 突然、澄んだ音が聞こえた。
 深い空洞の中に水滴が落ちる音だ。高い高い、澄んだ音。
 穴の中から――

 穴の中がかすかに光った。青い暗い光。
 人の影がせり上がってくる。
 あたしたちの眼は、それにくぎづけになる。うっすらと女の姿。髪を結《ゆ》った女。着物。細かいようすはわからない。いまにも消えそうなほど薄い影。
「富子さんはいません!」
 真砂子が叫ぶ。
「地上を探しても、どこにもいませんのよ!」
 青ざめた女の姿。首をたれて、深くうつむいたまま。
「どうぞ、わかって! 富子さんはどこにもいないのです!」
 真砂子が悲痛な声をあげる。
「その子たちは富子さんではありません! どうぞもう自由にしてあげて! みんなほんとうのお母さんのもとに帰りたいのですわ!」
 女をなんとか説得しようとして声をはりあげた真砂子の喉《のど》が、突然ヒッと鳴った。
 女の姿は、今や腰のあたりまで穴の上に現れている。その穴の縁《ふち》に白いものがうごめく。虫のような白いもの。白い、小さな子供の……指。
 子供の指が穴の縁にかかる。指で床を引っかいて手を差し出す。
 のぼってこようとしている。
 そのとなりにも子供の手。ひとつふえ、ふたつふえ……。やがていくつもの子供の手が、穴の上ににじりのぼろうとして、うごめきはじめる。床に爪《つめ》をたて、体を引き上げようとのたうつ。
「いや! こないで!」
 真砂子の悲鳴。あたしはもう、声なんか出ない。
 ジョンが、あたしたちの前に立ちふさがる。
 聖水のびんを構えたとたん、部屋が揺《ゆ》れる。ジョンの体が何かに突き倒されて床にたたきつけられる。
「ジョン!」
 そのとき、うつむいていた女がスゥと顔をあげた。
 うらみをこめた眼。女は真砂子の声など聞く気がないのだ。富子ちゃんが恋しくて恋しくて。この世を離れる気にもなれない。
 女は陰鬱《いんうつ》な目を部屋の中にさまよわす。その眼がふと止まった。ドアのところにある黒い影に。
 闇《やみ》に溶け入るほど黒い影。ほのかに白い顔。
 ナルが女を見据《みす》える。闇色の眼には自信の色。
 ナルは白い右手をかざした。
「ナル、やめてください! 少し待って!」
 真砂子の悲鳴。ナルは真砂子を振りかえりもしない。白い手をあげて、手の中にあるものを女に向かって突《つ》きつける。女の眼がナルの右手にくぎづけになる。
「おまえの子供はここにいる」
 ナルの静かな声。かざしたのは板を人の形に切って、そこに札を貼《は》ったものだった。
 女の眼が人形《ひとがた》の板を射抜《いぬ》く。
「集めた子供ともども……連《つ》れて行くがいい」
 ナルが板を投げた。
 女がなにか叫び声をあげた。
 闇《やみ》の中にほの白く軌跡《きせき》を描いて、ゆっくりと回転しながら板が飛んでいく。まわるうちに輪郭《りんかく》が溶《と》けて、花が開くように広がるとやわらかな形を作った。――小さな子供の姿を――。
 あたし知っている。あの子が富子ちゃんだ。
 女は身をかがめて腕を伸ばした。白い白い富子ちゃんのほうへ。富子ちゃんは宙を駆《か》けて女のほうにすべり寄った。
 部屋の空気が渦《うず》巻く。逆巻《さかま》く。
 女の影がゆらいで、広げた腕が煙のように伸びる。薄れそうな指が富子ちゃんの体にかかったとたん、そこが白い光を放った。
「…………!」
 なに? この光は?
 女の手が富子ちゃんを抱きよせる。そこから白い光がにじんで広がる。
 板を胸にかかえこむ。表情は見えない。でも女の肩の線、首の線……安堵《あんど》の気配。
 白い光がにじむように広がって女の全身を包みこむ。女の影が光の中に溶《と》け落ちた。
 光はそのまま部屋の中に満ちてゆく。
 暖かい静かな光だった。まぶしくない。ただ暖かく白い。
 その光は、部屋いっぱいに満ちて、それから徐々に薄れていく。
 煙のような姿の子供たちが、ほんの一瞬、はっきりした姿を現して光の中に溶け入り流れて薄れていく。
 あたしは確かに見た。光の中に溶け入っていく寸前、子供たちが安らぐように薄くわらうのを。
 ゆっくりと光が消えると、後には薄藍《あい》色の闇《やみ》が残った。
 真砂子が腰を浮かす。
「……消えましたわ……。浄化《じょうか》した……!」

     4

 ……そして夜明けがやってきた。
 あたしたちは居間に集まる。床に開いた穴を見つめる。
「真砂子《まさこ》、どう?」
 綾子《あやこ》の声に真砂子が笑みをつくる。
「……もう誰《だれ》もいませんわ。この家には、もう霊はいない……」
 ひとり、ふたり、床に腰をおろす。しばらくは全員でおし黙っていた。疲れきって口をひらく気にもなれない。そのまま、ボーッとすわっている。
「……なんで浄化したの?」
 ポツンと綾子が聞くと、ナルは、
「望みが、かなったから」
「望みぃ?」
「子供を手に入れた」
 ……わかんない。
 あたしはナルをつつく。
「ねぇ、さっきの板は、なに?」
「見たとおりだ。人形」
 ぼーさんが口をはさむ。
「ヒトガタ。
 別名、偶人《ぐうじん》。木人《もくじん》。桐人《とうじん》……か」
 綾子《あやこ》も、
「人の形に切った桐の木を、呪《のろ》う相手に見たてるんでしょ。
 あれは人を呪う方法だと思ってたわ。呪いのワラ人形の原型だもん」
 ナルはウンザリしたふぜいだ。
 へへん、わからないのは素人《しろうと》だけじゃないじゃないか。
「呪術《じゅじゅつ》には必ず、白と黒がある。
 白は人を助け、黒は人を害する。同じ呪法が白と黒を兼ねることは多い」
「それはそうだな。密教の怨敵《おんてき》退散も、両方の意味に使うもんな」
 ぼーさんがしみじみと言う。
 ……ふうん。
「でも、人形《ひとがた》がどうして浄霊《じょうれい》の役にたつの?」
 あたしがナルに聞くと、
「ヒトガタというのは、魂《たましい》の依代《よりしろ》なんだ。依代、わかるか?」「いまいち」
「魂が入る器。
 あのヒトガタを麻衣《まい》に見立てれば、あれは麻衣のかわりになる。
 麻衣に見立てた人形に、わざと病気や災厄《さいやく》を呼び寄せて、これを封じて川に流して清める。これが流し雛《びな》。今のひな祭りの原型」
「へー」
「あのヒトガタは、富子に見立てた。
 女はあれを自分の子供だと思ったんだ。子供を手にいれたと思った。だから浄化した」「ということは、だましたわけ?」
「こら」
「だって、しょせんはニセモノでしょ?」
「ニセモノとは少しちがう。
 
 麻衣のヒトガタに釘を打てば、麻衣が死ぬ。そのていどには本物だよ。
 それでいいんだ。一旦《いったん》浄化されれば、もどってこない。あの世界は、そういう場所なんだから。――わかったか?」
「うん……わかるような、わからないような……」
 ぼーさんが、
「よくヒトガタが作れたな。そのために出て行ったのか?」
「そう。あの女の素性《すじょう》を調べに」
「ヒトガタができた、ということは、調べがついたんだな」
「もちろん。てこずったけどね。
 古い街だからできたことだな。もっと中央のほうだったらアウトだった」
「……で?」
「女は大島ひろ。女の家が取り壊されて、建ったのかこの家なんだ。
 富子は女のひとり娘。この子は、ある日消えてその半年後、池に死体が浮かんだ」
「……さらわれたのでしょうか」
 言って、リンさんはあたしを見る。
 ナルは軽く肩をすくめて、
「さぁ。そうかも。女は……」
「井戸に身を投げて自殺した」
 綾子がわらう。
 ナルがキョトンとする。
「……それはどうだか知らないけど。
 女は、娘が消えて半年後に死んだ。
 要は富子の生没年が、わかればよかったんだ。ヒトガタを作るのに必要だったから」
「ふうん……」
 あたしがつぶやくと同時に、ナルが立ち上がった。黙って居間を出て行く。そのあとをリンさんが追う。ふたりの後ろ姿を見送って、
「ナルが陰陽師《おんみょうじ》だったとはねぇ」
 ぼーさんが、ため息をもらした。
「おんみょうじ、って?」
「陰陽道の使い手。……わからんだろうな、これじゃ」
「わかるもんか」
 ぼーさんが苦笑をひとつ。
「なんとゆーか、まぁ、中国から呪術。日本じゃ古くからあってな、平安時代には陰陽寮という役所まであった。
 ヒトガタを使う呪術の本家は陰陽道。神道《しんとう》でも使うけどな。まぁ、ヒトガタを富子に見立てて、浄霊《じょうれい》するなんて高度なワザは、陰陽師《おんみょうじ》にしかできんだろ」
 ……へぇぇ。
「すごいじゃない。陰陽師なんて」
 綾子のつぶやき。あたしは綾子を振りかえる。
「すごいの?」
「まーね。ちょっとカッコイイわよ、陰陽師って」
 ……ほえー。すごーい。
 虚脱感《きょだつかん》。あたしたちは、長いこと黙ってボンヤリしていた。
 やがてポツポツと立ち上がる。
「げにおそろしきは女の執念、というやつだな」
 ぼーさんがため息まじりに言う。
「あら、それを言うなら、げに深きものは母の愛、よ」
「どうかね。……まあ、いいさ。
 あー、疲れた! もうごめんだ、こんなしんどい事件は」
「言えてるわね」
 そう言って、ひとりふたりとゆっくりと居間を出ていった。
 あたしが玄関ホールに入ると、ナルが電話をしているところだった。
「……いつもどって来られても結構です。終了しました」
 電話を切って、振りかえったナルと眼があった。夜よりも深い眼。
「これで終わったと思う?」
 あたしはナルに聞いた。
 ナルは眼を和《なご》ませる。
「もうだいじょうぶなんじゃない?」
「ふぅん」
 ホールで電話のようすを見まもっていた、ぼーさんが背伸びをして、
「さて、ナルちゃん、引き揚《あ》げる準備をしようか」
「ああ」
「そうだ、ナル?」
 ナルに声をかけたのは綾子だ。
「あんた、真砂子とつきあってるんだって?」
 ナルが一瞬、眉《まゆ》をあげる。
「つきあう?」
「デートしてるんでしょ? 映画を見たり、コンサートに行ったり。
 若いひとはいいわねぇ」
 思いっきり皮肉な口調。
 ……やめなよ、綾子。そういう追及は墓穴《ぼけつ》を掘るだけだぞ。
 ナルが冷たい眼で綾子をにらむ。
「なるほど、僕《ぼく》がいない間に、そういうくだらない話をしていたわけか。
 除霊《じょれい》できなかったわけだ」
 ……ほらね。
「おんなたらし」
「おや、僕が原さんと出かけるのがそんなにショック?」
 ナルは涼《すず》しい顔。
 ……あーあ、こいつはもー、綾子もやめなよ。口じゃナルにはかなわねーって。
「うぬぼれたこと言わないでよね。アタシは子供に興味ないの」
 綾子の精いっぱいの反撃。
「それはよかった。僕もおばさんには興味ないから」
 ニッコリ笑うナル。
 綾子がツンとそっぽを向いて、二階へあがって行った。
 玄関ホールにはいつのまにか、あたしとナルだけになった。
「ナルってば、隠してたんだー」
 あたしはわらって言ってやる。できるだけ、冗談みたいに。
 ……あー、ダメだ。こういうことを言ったって、足元をすくわれるだけなのに。
 でも、ナルはちょっと困《こま》った顔をして視線をそらした。
 へぇぇ、ナルでも困った顔なんて、することあるのかぁ。これはびっくり。
「真砂子が何を言ったか知らないが」
 ナルはそっぽをむいたまま言う。
「そんなのじゃない。――誤解だ」
 そうして、ベースにしていた部屋のほうに歩き始めた。
 ……誤解だ。
 その言葉が、夢の中のナルと重なって、あたしはなんだかおかしかった。
 ……誤解かぁ。
 思わず顔がわらってしまう。
 こういうのってうれしいね。深い意味はないんだろうけどさ。綾子が聞いたときには言い訳なんてしなかったのに、あたしが聞いたら言い訳してくれた。
 うん。しばらくそういうことにしておこう。ナルは、綾子に誤解されるのはかまわないと思った。でも、あたしには誤解されたくなかった、と。
 うーん、ないよなー、そんなこと。でも、いいや。とりあえず、そう思ってうぬぼれておこうっと。人間、明るくなれる材料は大切にしなきゃ。ねー?
 あたしはしばらく、ひとりでクスクスわらっていた。

 あたしたちが機材の整理をしていると、典子《のりこ》さんと礼美《あやみ》ちゃんがホテルから帰ってきた。
 ナルが典子さんに事情を説明する。
 
「本当に、もうだいじょうぶなんでしょうか」
 不安そうな典子さんに、
「心配ないでしょう。気になるのでしたら、家をかわってもかまいませんよ。
 そのほうが安心できるかもしれませんね」
 ナルの言葉に、典子さんが安心したように礼美ちゃんを抱き寄せる。
 礼美ちゃんは、あたしと眼があうとニッコリわらった。
 小さい子独特の、ぴかぴかした笑顔。
 ああ、よかったなぁ……。
「よかったね」
 なんとなく呼びかけた。礼美ちゃんの小さな胸の中で、この事件がどんなふうに整理されるのかはわからないけれど。
 礼美ちゃんがあたしに駆《か》け寄ってきた。いつのまにか顔色が沈みこんでいる。
 ……どうしたの?
 礼美ちゃんが、あたしの手にしがみつく。
「麻衣ちゃん、かえっちゃうの?」
「ん? うん」
「もっと、とまっていけばいいのに」
 礼美ちゃんの子供らしい不満そうな表情。
 ……だいじょうぶだね。もうこんなに元気なんだもん。すぐにこんな事件なんて忘れてしまって、もとの礼美ちゃんにもどるよね。
「いつ、かえるの?」
 聞かれてあたしは、ナルの顔を見る。
「明日《あす》」
「明日、だって」
「こんばんは、とまるの?」
「うん」
「じゃあね、麻衣ちゃん、礼美のおへやにとめてあげるね。
 きにいったら、もっといてもいいのよ」
 典子さんが、耐えかねたようにクスクス笑いだした。あたしもこらえきれずに、笑いだす。
 礼美《あやみ》ちゃんはキョトンとしていた。

 その夜、もう一晩、あたしたちはようすを見るために森下邸に泊《と》まった。あたしは礼美ちゃんのリクエストどおり、礼美ちゃんと典子さんの部屋で眠った。
 ノックも騒音も、何もない、とても静かな夜だった。


エピローグ


 東京、渋谷《しぶや》、道玄坂《どうげんざか》。
 あたしは「渋谷サイキック・リサーチ」のオフィスで、ビデオテープの整理をしている。
『The Case of Morishita』――すなわち、『森下事件』と書いたラベルを、テープに貼《は》って、リンさんがつけたメモを清書していく。
 これは何かなぁ。『Corridor of Ground Floor』……わかんねぇなー。いいや、このまんま写しちゃえ。
 まったくもー。こいつらはどーして横文字を使いたがるのかねー。あたしはだいたい、何かというと横文字をつかいたがる、昨今《さっこん》の風潮には怒りをおぼえるぞ。横文字で書きゃ、かっこいいかと思って。
 ふん。どーせ、あたしは英語が苦手《にがて》だよぉ。
 せっせとビデオの整理をしていたら、ドアが開いた。
 おっと客だ。あわてて笑顔をこさえて、立ち上がる。
 ……なんだ、あんたか。
「よっ」
 ぼーさんが、のんきそうな顔で手をあげる。
 このところ、ひんぱんにやって来るな、こいつ。
「暑いねぇ。麻衣《まい》ちゃん、俺《おれ》、アイスコーヒーがいいなー」
「なんでお客でもない人間に、お茶を出すわけ?
 それともぼーさん、事件の依頼?」
 ぼーさんが情けなさそうな表情をする。
「どーしてここの人間は、そうも冷たいわけなんだ?」
「営業方針」
「なんだ、そりゃ。
 なー、たのむよ。コーヒー。今度、映画でもおごってやるから」
 ごめんこうむり。
 あたしはしかたなく立ち上がった。が。
「麻衣、アタシはアイスティーにして」
 げ。綾子《あやこ》っ。
「なによ、ぼーさん。こんなとこでアブラ売ってていいの?」
「その言葉、そっくりかえしてやるよ」
 あのなー。あんたら、ここを喫茶店がわりにするなよな。
「ナルは?」
 綾子の問いに、あたしは丁寧《ていねい》に答えてやる。
「所長でしたら、所長室で、瞑想《めいそう》中でございますわ」
「あー?」
「なによ、それ」
「知らない、そう本人が言ってるもん。
 なんだか知らないけど、地図を広げてじーっと考えこんでんの。あたしは、旅行の計画を練《ね》ってるだけだと見たね」
「へー」
「でも、あれやってるときにジャマすると大目玉をくらう。
 だから、ナルはあきらめて、お茶飲んで帰れば?」
 綾子はちょっと唇《くちびる》をとがらす。
「なーんだ。
 あたし、アールグレイにしてよね」
 ……へいへい。
 なんちゅー勝手な客だ。おっと、客じゃなかったか。
 キッチンに入ろうとすると、再びドアの開く音。
 ……今度こそお客……なんてこったい。
「あ、こんにちは、です」
「あれー、ジョンじゃない」
「よぉ」
 ま、いいけどね、ジョンなら。
 でも、あたしはいちおう聞いたりする。
「どうしたの、ジョン?」
「近くまで来たんで、よらせてもろたんです」
 ……あー、さよーで。
「お茶いれるけど、何がいい?」
「……すんません。お手間のかからへんもんでかまいませんです」
 ……うんうん。いいねぇ。このひかえめな言い方。見習えよ、ぼーさんに綾子。
 あたしはヤカンをかけて、お茶の準備をする。ポットの用意をしながら、いやーな予感。
 ぼーさんが来て、綾子が来て、おまけにジョンが来た。と。すると、まさか……。
 そこに、所長室のドアが開いて当のナルが出てきた。
「麻衣、お茶……」
 いいかけて、オフィスを見て眼を見開く。
「……何のご用ですか?」
「いやー」
「ちょっとー」
 各々《おのおの》が言い訳を口にするのを冷たくながめる。
「……麻衣、なんなんだ、この騒ぎは」
 
「存じません。ファンクラブなんじゃないの?
 ――お茶、何にする?」
「なんでもいい」
 言って一同を見渡す。
「ここは喫茶店じゃないんだけど?」
「まぁまぁ」
 ぼーさんがにこやかに手を振る。
「堅《かた》いことは言いなさんなって。――旅行に行くんだって?」
「誰《だれ》が?」
「地図をながめているんだろ?
 まさか、本当に瞑想《めいそう》してたわけじゃないよなぁ?」
「そのつもりだったけど、これじゃ不可能だな」
 ため息まじりに言いながらも、ジョンの隣に腰をおろす。
 すぐに、最近出た本がどうとか、論文がどうとか、どこそこの霊能者がどうだとか、プロ同士の会話になってしまった。
 やれやれ。
 あたしは頭をひとつ振って、お茶をいれる。
 まぁいいけど。これでまた仕事をサボれる。あいつらが来てるあいだは、仕事にならないからなぁ。
 トレイにグラスを並べてキッチンを出たとたん、はかったようなタイミングで、再び(正確には四たび)ドアの開く音がした。
 ……まさか。
 全員の視線がドアに集まる。
 ドアをあけて、涼《すず》しげな着物姿の女のコが姿を現した。
 ……ウンザリ。
「なによ、真砂子《まさこ》、何の用?」
「あら、そういう松崎《まつざき》さんこそ」
「アタシは、ちょっと近くまで来たからー」
「あたくしもですわ。こんにちは」
 真砂子がナルにわらいかける。
 とたんにナルがそそくさと立ち上がった。
「……麻衣、僕《ぼく》はちょっと、出てくる」
 ……は?
「あら、お出かけですの?」
「ああ……。ちょっと」
「おともしますわ」
「いや、結構。ごゆっくり」
 ……ひょっとして、ナル、あんた真砂子を避けてない?
 そう言えば……礼美《あやみ》ちゃんの事件でも、綾子が真砂子を呼ぼうと言うのに、ずいぶん反対していたな。
「あら、出るんだったら、アタシもご一緒するわよ」
「いや……」
 ナルは真砂子と綾子を見くらべる。真沙子がちゃっかりナルの腕に手をかけた。
「あたくし、おともしたいわ」
 ねっとりした口調。
 ……こいつはー……。ふん、ナルが他人の言うことなんか聞くもんか。ノーと言ったら絶対にノーの人間なのよ。
 ……が、しかし。
「…………」
 声にならないつぶやきをもらして、ナルはそのまま歩きだした。真沙子の手を振りほどかずに。
 ……がーん。
 真沙子が得意そうな眼であたしたちを振りかえる。
「ごめんあそばせ」

 ……しばらく、全員でぼーぜんとドアをにらんでしまった。
「……なによ、あいつっ!」
 綾子のバ声は、どちらに向けられたものなのかわからない。
 ……なんでよぉ、誤解だって言ったじゃんよー。ナルのうそつきぃ!
 ぼーさんが身を乗りだした。
「なぁ、麻衣? ナルは真沙子になんか弱みでも握《にぎ》られてるのか?」
「弱み? ナルにそんなもん、あると思う?」
「……しかし、弱みを握られてるんじゃなきゃ、いまのは何なんだよ」
 ……そんなこと聞かれてもわかんないよぉ。
「たしかに……」
 ジョンまでが困《こま》ったように首をかしげる。
「麻衣。いつも聞こうと思ってたんだけどさ」
 ぼーさんが声をひそめる。
「ナルって、本当にここの所長なのか?」
「……いまさら、なにを。当然そうだよ」
「オーナーとかいないのか?」
「いないよ」
 ……たぶん。
「なんで?」
 あたしが聞くと、ぼーさんは、
「なんでって、おまえ……。この事務所の家賃、いくらすると思う?」
 綾子もふと、
「そういえば、そうよね、仮にも渋谷でしょ? まだビルは新しいし事務所は広いし……」
「だろ? おまけにあの機材だ。高感度カメラ一台の値段は?」
 ……高い。とほーもなく高い。それは前に聞いて知ってる。
 ジョンがサラッと言う。
「パトロンでもいるのとちがいますか?」
 ……おいっ、おいっ!
「ボク、なんぞ変なことでも言いましたか?」
「……パトロンって、おまえな……」
 ぼーさんの声に、
「けど、欧米やったら、ようあることです。超心理学ゆうのは、まだ理解されてない学問ですから、どこの研究所も後援者がいるのがふつうやと思いますけど。大きな財団が後援してるところかてありますし、博士号や教授職を作ってる財団かて」
「ジョン、……あのな」
「ハイ」
「日本語は気をつけて使え。日本でパトロンつったら、意味が少し違うんだぞ」
「……はぁ?」
 ……あー、びっくりした。
「しかしねそのセンは悪くない」
 ぼーさんが腕を組む。
「ひょっとして、後援者がいてさ、それが真沙子の父親とかな」
「あ、そやったら、原さんの誘《さそ》いは断れませんね」
「だろ?」
 綾子も身を乗り出す。
「こういう可能性もあるんじゃない? ……ナルはじつはおぼっちゃま」
 ……うーむ。
 しばし全員で考えこんだあと、ぼーさんがいきなり立ち上がった。
「ま、それはともかく。綾子はミゴトにふられたわけだ」
「……よけいなお世話よっ!」
「ハラいせにどう? 俺《おれ》とデートしない?」
 ……おちゃらけ坊主《ぼうず》。
「お断りっ。誰《だれ》があんたなんかと」
「オヤオヤ。んじゃ、麻衣? どう?」
 
 ……あたしーっ!?
「コーヒーのお礼に映画でも」
 ……コーヒーのお礼って、これは事務所のもんで、べつにあたしのものじゃ……。
 ん? というように、ぼーさんにうながされて、
「……ぼーさんのおごり?」
「モチロン。森下事件で依頼料が入ったばかりだし、俺《おれ》いま、金持ちだぜ?」
「行く」
 ……行くとも。行ってやるーぅ! ナルのばかー!
 あたしは十五の若いみそらで、青春したいさかりなんだからねっ。それをナルみたいなニブイやつ、待ってられるかぁー!
 おどろいたようにあたしを見上げているジョンと綾子。
「あんたが、ロリコンだったとは知らなかったわ」
と、綾子。
「おや、女の子は若いほうがいいに決まってるじゃねぇか。なー、麻衣ちゃん」
「ねー、ぼーさん」
「若いコのほうがいいんだったら、あんたが真沙子にアタックすれば?
 そしたらアタシが……」
 ……こいつっ。
「俺、見る眼あるから、真沙子より麻衣ちゃんのほうがいいー」
 ……え?
「真沙子より性格いいしー」
 ……うれしいこと言ってくれるじゃない。みどころのあるやつ。
「あー、あたしもぼーさん、けっこうハンサムかなーとか思ったのー」
「お、わかってるねー」
「うん(ハート)」
 綾子はジトッとあたしたちをながめたあと、
「よしっ! ジョン、デートしよ!」
「え??? ボク……ですかぁ?」
「そ。おねーさんがおごったげるっ! さっ!」
 ひきずるようにして綾子がジョンを立たせる。

 ……というわけで。
 本日、以後ご来訪のお客様。もうしわけありませんが、あたしはいません。リンさんに相手をしてもらってくださいませ。なーに、そんなにこわいひとじゃありません。たぶん。
 みょうに気があったりするかもしれません。
 そーゆうことで、……よろしくっ。

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11] [12] [13] [14] [15] [16] [17] [18]
责任编辑:Mashimaro

上一篇: 悪霊シリーズ第1巻 悪霊がいっぱい

下一篇: 2007-2008年度 JTEST考试安排