钉蓼丹场贰ⅳ嗓Γ俊 綾子《あやこ》の声に真砂子が笑みをつくる。 「……もう誰《だれ》もいませんわ。この家には、もう霊はいない……」 ひとり、ふたり、床に腰をおろす。しばらくは全員でおし黙っていた。疲れきって口をひらく気にもなれない。そのまま、ボーッとすわっている。 「……なんで浄化したの?」 ポツンと綾子が聞くと、ナルは、 「望みが、かなったから」 「望みぃ?」 「子供を手に入れた」 ……わかんない。 あたしはナルをつつく。 「ねぇ、さっきの板は、なに?」 「見たとおりだ。人形」 ぼーさんが口をはさむ。 「ヒトガタ。 別名、偶人《ぐうじん》。木人《もくじん》。桐人《とうじん》……か」 綾子《あやこ》も、 「人の形に切った桐の木を、呪《のろ》う相手に見たてるんでしょ。 あれは人を呪う方法だと思ってたわ。呪いのワラ人形の原型だもん」 ナルはウンザリしたふぜいだ。 へへん、わからないのは素人《しろうと》だけじゃないじゃないか。 「呪術《じゅじゅつ》には必ず、白と黒がある。 白は人を助け、黒は人を害する。同じ呪法が白と黒を兼ねることは多い」 「それはそうだな。密教の怨敵《おんてき》退散も、両方の意味に使うもんな」 ぼーさんがしみじみと言う。 ……ふうん。 「でも、人形《ひとがた》がどうして浄霊《じょうれい》の役にたつの?」 あたしがナルに聞くと、 「ヒトガタというのは、魂《たましい》の依代《よりしろ》なんだ。依代、わかるか?」「いまいち」 「魂が入る器。 あのヒトガタを麻衣《まい》に見立てれば、あれは麻衣のかわりになる。 麻衣に見立てた人形に、わざと病気や災厄《さいやく》を呼び寄せて、これを封じて川に流して清める。これが流し雛《びな》。今のひな祭りの原型」 「へー」 「あのヒトガタは、富子に見立てた。 女はあれを自分の子供だと思ったんだ。子供を手にいれたと思った。だから浄化した」「ということは、だましたわけ?」 「こら」 「だって、しょせんはニセモノでしょ?」 「ニセモノとは少しちがう。 麻衣のヒトガタに釘を打てば、麻衣が死ぬ。そのていどには本物だよ。 それでいいんだ。一旦《いったん》浄化されれば、もどってこない。あの世界は、そういう場所なんだから。――わかったか?」 「うん……わかるような、わからないような……」 ぼーさんが、 「よくヒトガタが作れたな。そのために出て行ったのか?」 「そう。あの女の素性《すじょう》を調べに」 「ヒトガタができた、ということは、調べがついたんだな」 「もちろん。てこずったけどね。 古い街だからできたことだな。もっと中央のほうだったらアウトだった」 「……で?」 「女は大島ひろ。女の家が取り壊されて、建ったのかこの家なんだ。 富子は女のひとり娘。この子は、ある日消えてその半年後、池に死体が浮かんだ」 「……さらわれたのでしょうか」 言って、リンさんはあたしを見る。 ナルは軽く肩をすくめて、 「さぁ。そうかも。女は……」 「井戸に身を投げて自殺した」 綾子がわらう。 ナルがキョトンとする。 「……それはどうだか知らないけど。 女は、娘が消えて半年後に死んだ。 要は富子の生没年が、わかればよかったんだ。ヒトガタを作るのに必要だったから」 「ふうん……」 あたしがつぶやくと同時に、ナルが立ち上がった。黙って居間を出て行く。そのあとをリンさんが追う。ふたりの後ろ姿を見送って、 「ナルが陰陽師《おんみょうじ》だったとはねぇ」 ぼーさんが、ため息をもらした。 「おんみょうじ、って?」 「陰陽道の使い手。……わからんだろうな、これじゃ」 「わかるもんか」 ぼーさんが苦笑をひとつ。 「なんとゆーか、まぁ、中国から呪術。日本じゃ古くからあってな、平安時代には陰陽寮という役所まであった。 ヒトガタを使う呪術の本家は陰陽道。神道《しんとう》でも使うけどな。まぁ、ヒトガタを富子に見立てて、浄霊《じょうれい》するなんて高度なワザは、陰陽師《おんみょうじ》にしかできんだろ」 ……へぇぇ。 「すごいじゃない。陰陽師なんて」 綾子のつぶやき。あたしは綾子を振りかえる。 「すごいの?」 「まーね。ちょっとカッコイイわよ、陰陽師って」 ……ほえー。すごーい。 虚脱感《きょだつかん》。あたしたちは、長いこと黙ってボンヤリしていた。 やがてポツポツと立ち上がる。 「げにおそろしきは女の執念、というやつだな」 ぼーさんがため息まじりに言う。 「あら、それを言うなら、げに深きものは母の愛、よ」 「どうかね。……まあ、いいさ。 あー、疲れた! もうごめんだ、こんなしんどい事件は」 「言えてるわね」 そう言って、ひとりふたりとゆっくりと居間を出ていった。 あたしが玄関ホールに入ると、ナルが電話をしているところだった。 「……いつもどって来られても結構です。終了しました」 電話を切って、振りかえったナルと眼があった。夜よりも深い眼。 「これで終わったと思う?」 あたしはナルに聞いた。 ナルは眼を和《なご》ませる。 「もうだいじょうぶなんじゃない?」 「ふぅん」 ホールで電話のようすを見まもっていた、ぼーさんが背伸びをして、 「さて、ナルちゃん、引き揚《あ》げる準備をしようか」 「ああ」 「そうだ、ナル?」 ナルに声をかけたのは綾子だ。 「あんた、真砂子とつきあってるんだって?」 ナルが一瞬、眉《まゆ》をあげる。 「つきあう?」 「デートしてるんでしょ? 映画を見たり、コンサートに行ったり。 若いひとはいいわねぇ」 思いっきり皮肉な口調。 ……やめなよ、綾子。そういう追及は墓穴《ぼけつ》を掘るだけだぞ。 ナルが冷たい眼で綾子をにらむ。 「なるほど、僕《ぼく》がいない間に、そういうくだらない話をしていたわけか。 除霊《じょれい》できなかったわけだ」 ……ほらね。 「おんなたらし」 「おや、僕が原さんと出かけるのがそんなにショック?」 ナルは涼《すず》しい顔。 ……あーあ、こいつはもー、綾子もやめなよ。口じゃナルにはかなわねーって。 「うぬぼれたこと言わないでよね。アタシは子供に興味ないの」 綾子の精いっぱいの反撃。 「それはよかった。僕もおばさんには興味ないから」 ニッコリ笑うナル。 綾子がツンとそっぽを向いて、二階へあがって行った。 玄関ホールにはいつのまにか、あたしとナルだけになった。 「ナルってば、隠してたんだー」 あたしはわらって言ってやる。できるだけ、冗談みたいに。 ……あー、ダメだ。こういうことを言ったって、足元をすくわれるだけなのに。 でも、ナルはちょっと困《こま》った顔をして視線をそらした。 へぇぇ、ナルでも困った顔なんて、することあるのかぁ。これはびっくり。 「真砂子が何を言ったか知らないが」 ナルはそっぽをむいたまま言う。 「そんなのじゃない。――誤解だ」 そうして、ベースにしていた部屋のほうに歩き始めた。 ……誤解だ。 その言葉が、夢の中のナルと重なって、あたしはなんだかおかしかった。 ……誤解かぁ。 思わず顔がわらってしまう。 こういうのってうれしいね。深い意味はないんだろうけどさ。綾子が聞いたときには言い訳なんてしなかったのに、あたしが聞いたら言い訳してくれた。 うん。しばらくそういうことにしておこう。ナルは、綾子に誤解されるのはかまわないと思った。でも、あたしには誤解されたくなかった、と。 うーん、ないよなー、そんなこと。でも、いいや。とりあえず、そう思ってうぬぼれておこうっと。人間、明るくなれる材料は大切にしなきゃ。ねー? あたしはしばらく、ひとりでクスクスわらっていた。
あたしたちが機材の整理をしていると、典子《のりこ》さんと礼美《あやみ》ちゃんがホテルから帰ってきた。 ナルが典子さんに事情を説明する。 「本当に、もうだいじょうぶなんでしょうか」 不安そうな典子さんに、 「心配ないでしょう。気になるのでしたら、家をかわってもかまいませんよ。 そのほうが安心できるかもしれませんね」 ナルの言葉に、典子さんが安心したように礼美ちゃんを抱き寄せる。 礼美ちゃんは、あたしと眼があうとニッコリわらった。 小さい子独特の、ぴかぴかした笑顔。 ああ、よかったなぁ……。 「よかったね」 なんとなく呼びかけた。礼美ちゃんの小さな胸の中で、この事件がどんなふうに整理されるのかはわからないけれど。 礼美ちゃんがあたしに駆《か》け寄ってきた。いつのまにか顔色が沈みこんでいる。 ……どうしたの? 礼美ちゃんが、あたしの手にしがみつく。 「麻衣ちゃん、かえっちゃうの?」 「ん? うん」 「もっと、とまっていけばいいのに」 礼美ちゃんの子供らしい不満そうな表情。 ……だいじょうぶだね。もうこんなに元気なんだもん。すぐにこんな事件なんて忘れてしまって、もとの礼美ちゃんにもどるよね。 「いつ、かえるの?」 聞かれてあたしは、ナルの顔を見る。 「明日《あす》」 「明日、だって」 「こんばんは、とまるの?」 「うん」 「じゃあね、麻衣ちゃん、礼美のおへやにとめてあげるね。 きにいったら、もっといてもいいのよ」 典子さんが、耐えかねたようにクスクス笑いだした。あたしもこらえきれずに、笑いだす。 礼美《あやみ》ちゃんはキョトンとしていた。
その夜、もう一晩、あたしたちはようすを見るために森下邸に泊《と》まった。あたしは礼美ちゃんのリクエストどおり、礼美ちゃんと典子さんの部屋で眠った。 ノックも騒音も、何もない、とても静かな夜だった。
エピローグ
東京、渋谷《しぶや》、道玄坂《どうげんざか》。 あたしは「渋谷サイキック・リサーチ」のオフィスで、ビデオテープの整理をしている。 『The Case of Morishita』――すなわち、『森下事件』と書いたラベルを、テープに貼《は》って、リンさんがつけたメモを清書していく。 これは何かなぁ。『Corridor of Ground Floor』……わかんねぇなー。いいや、このまんま写しちゃえ。 まったくもー。こいつらはどーして横文字を使いたがるのかねー。あたしはだいたい、何かというと横文字をつかいたがる、昨今《さっこん》の風潮には怒りをおぼえるぞ。横文字で書きゃ、かっこいいかと思って。 ふん。どーせ、あたしは英語が苦手《にがて》だよぉ。 せっせとビデオの整理をしていたら、ドアが開いた。 おっと客だ。あわてて笑顔をこさえて、立ち上がる。 ……なんだ、あんたか。 「よっ」 ぼーさんが、のんきそうな顔で手をあげる。 このところ、ひんぱんにやって来るな、こいつ。 「暑いねぇ。麻衣《まい》ちゃん、俺《おれ》、アイスコーヒーがいいなー」 「なんでお客でもない人間に、お茶を出すわけ? それともぼーさん、事件の依頼?」 ぼーさんが情けなさそうな表情をする。 「どーしてここの人間は、そうも冷たいわけなんだ?」 「営業方針」 「なんだ、そりゃ。 なー、たのむよ。コーヒー。今度、映画でもおごってやるから」 ごめんこうむり。 あたしはしかたなく立ち上がった。が。 「麻衣、アタシはアイスティーにして」 げ。綾子《あやこ》っ。 「なによ、ぼーさん。こんなとこでアブラ売ってていいの?」 「その言葉、そっくりかえしてやるよ」 あのなー。あんたら、ここを喫茶店がわりにするなよな。 「ナルは?」 綾子の問いに、あたしは丁寧《ていねい》に答えてやる。 「所長でしたら、所長室で、瞑想《めいそう》中でございますわ」 「あー?」 「なによ、それ」 「知らない、そう本人が言ってるもん。 なんだか知らないけど、地図を広げてじーっと考えこんでんの。あたしは、旅行の計画を練《ね》ってるだけだと見たね」 「へー」 「でも、あれやってるときにジャマすると大目玉をくらう。 だから、ナルはあきらめて、お茶飲んで帰れば?」 綾子はちょっと唇《くちびる》をとがらす。 「なーんだ。 あたし、アールグレイにしてよね」 ……へいへい。 なんちゅー勝手な客だ。おっと、客じゃなかったか。 キッチンに入ろうとすると、再びドアの開く音。 ……今度こそお客……なんてこったい。 「あ、こんにちは、です」 「あれー、ジョンじゃない」 「よぉ」 ま、いいけどね、ジョンなら。 でも、あたしはいちおう聞いたりする。 「どうしたの、ジョン?」 「近くまで来たんで、よらせてもろたんです」 ……あー、さよーで。 「お茶いれるけど、何がいい?」 「……すんません。お手間のかからへんもんでかまいませんです」 ……うんうん。いいねぇ。このひかえめな言い方。見習えよ、ぼーさんに綾子。 あたしはヤカンをかけて、お茶の準備をする。ポットの用意をしながら、いやーな予感。 ぼーさんが来て、綾子が来て、おまけにジョンが来た。と。すると、まさか……。 そこに、所長室のドアが開いて当のナルが出てきた。 「麻衣、お茶……」 いいかけて、オフィスを見て眼を見開く。 「……何のご用ですか?」 「いやー」 「ちょっとー」 各々《おのおの》が言い訳を口にするのを冷たくながめる。 「……麻衣、なんなんだ、この騒ぎは」 「存じません。ファンクラブなんじゃないの? ――お茶、何にする?」 「なんでもいい」 言って一同を見渡す。 「ここは喫茶店じゃないんだけど?」 「まぁまぁ」 ぼーさんがにこやかに手を振る。 「堅《かた》いことは言いなさんなって。――旅行に行くんだって?」 「誰《だれ》が?」 「地図をながめているんだろ? まさか、本当に瞑想《めいそう》してたわけじゃないよなぁ?」 「そのつもりだったけど、これじゃ不可能だな」 ため息まじりに言いながらも、ジョンの隣に腰をおろす。 すぐに、最近出た本がどうとか、論文がどうとか、どこそこの霊能者がどうだとか、プロ同士の会話になってしまった。 やれやれ。 あたしは頭をひとつ振って、お茶をいれる。 まぁいいけど。これでまた仕事をサボれる。あいつらが来てるあいだは、仕事にならないからなぁ。 トレイにグラスを並べてキッチンを出たとたん、はかったようなタイミングで、再び(正確には四たび)ドアの開く音がした。 ……まさか。 全員の視線がドアに集まる。 ドアをあけて、涼《すず》しげな着物姿の女のコが姿を現した。 ……ウンザリ。 「なによ、真砂子《まさこ》、何の用?」 「あら、そういう松崎《まつざき》さんこそ」 「アタシは、ちょっと近くまで来たからー」 「あたくしもですわ。こんにちは」 真砂子がナルにわらいかける。 とたんにナルがそそくさと立ち上がった。 「……麻衣、僕《ぼく》はちょっと、出てくる」 ……は? 「あら、お出かけですの?」 「ああ……。ちょっと」 「おともしますわ」 「いや、結構。ごゆっくり」 ……ひょっとして、ナル、あんた真砂子を避けてない? そう言えば……礼美《あやみ》ちゃんの事件でも、綾子が真砂子を呼ぼうと言うのに、ずいぶん反対していたな。 「あら、出るんだったら、アタシもご一緒するわよ」 「いや……」 ナルは真砂子と綾子を見くらべる。真沙子がちゃっかりナルの腕に手をかけた。 「あたくし、おともしたいわ」 ねっとりした口調。 ……こいつはー……。ふん、ナルが他人の言うことなんか聞くもんか。ノーと言ったら絶対にノーの人間なのよ。 ……が、しかし。 「…………」 声にならないつぶやきをもらして、ナルはそのまま歩きだした。真沙子の手を振りほどかずに。 ……がーん。 真沙子が得意そうな眼であたしたちを振りかえる。 「ごめんあそばせ」
……しばらく、全員でぼーぜんとドアをにらんでしまった。 「……なによ、あいつっ!」 綾子のバ声は、どちらに向けられたものなのかわからない。 ……なんでよぉ、誤解だって言ったじゃんよー。ナルのうそつきぃ! ぼーさんが身を乗りだした。 「なぁ、麻衣? ナルは真沙子になんか弱みでも握《にぎ》られてるのか?」 「弱み? ナルにそんなもん、あると思う?」 「……しかし、弱みを握られてるんじゃなきゃ、いまのは何なんだよ」 ……そんなこと聞かれてもわかんないよぉ。 「たしかに……」 ジョンまでが困《こま》ったように首をかしげる。 「麻衣。いつも聞こうと思ってたんだけどさ」 ぼーさんが声をひそめる。 「ナルって、本当にここの所長なのか?」 「……いまさら、なにを。当然そうだよ」 「オーナーとかいないのか?」 「いないよ」 ……たぶん。 「なんで?」 あたしが聞くと、ぼーさんは、 「なんでって、おまえ……。この事務所の家賃、いくらすると思う?」 綾子もふと、 「そういえば、そうよね、仮にも渋谷でしょ? まだビルは新しいし事務所は広いし……」 「だろ? おまけにあの機材だ。高感度カメラ一台の値段は?」 ……高い。とほーもなく高い。それは前に聞いて知ってる。 ジョンがサラッと言う。 「パトロンでもいるのとちがいますか?」 ……おいっ、おいっ! 「ボク、なんぞ変なことでも言いましたか?」 「……パトロンって、おまえな……」 ぼーさんの声に、 「けど、欧米やったら、ようあることです。超心理学ゆうのは、まだ理解されてない学問ですから、どこの研究所も後援者がいるのがふつうやと思いますけど。大きな財団が後援してるところかてありますし、博士号や教授職を作ってる財団かて」 「ジョン、……あのな」 「ハイ」 「日本語は気をつけて使え。日本でパトロンつったら、意味が少し違うんだぞ」 「……はぁ?」 ……あー、びっくりした。 「しかしねそのセンは悪くない」 ぼーさんが腕を組む。 「ひょっとして、後援者がいてさ、それが真沙子の父親とかな」 「あ、そやったら、原さんの誘《さそ》いは断れませんね」 「だろ?」 綾子も身を乗り出す。 「こういう可能性もあるんじゃない? ……ナルはじつはおぼっちゃま」 ……うーむ。 しばし全員で考えこんだあと、ぼーさんがいきなり立ち上がった。 「ま、それはともかく。綾子はミゴトにふられたわけだ」 「……よけいなお世話よっ!」 「ハラいせにどう? 俺《おれ》とデートしない?」 ……おちゃらけ坊主《ぼうず》。 「お断りっ。誰《だれ》があんたなんかと」 「オヤオヤ。んじゃ、麻衣? どう?」 ……あたしーっ!? 「コーヒーのお礼に映画でも」 ……コーヒーのお礼って、これは事務所のもんで、べつにあたしのものじゃ……。 ん? というように、ぼーさんにうながされて、 「……ぼーさんのおごり?」 「モチロン。森下事件で依頼料が入ったばかりだし、俺《おれ》いま、金持ちだぜ?」 「行く」 ……行くとも。行ってやるーぅ! ナルのばかー! あたしは十五の若いみそらで、青春したいさかりなんだからねっ。それをナルみたいなニブイやつ、待ってられるかぁー! おどろいたようにあたしを見上げているジョンと綾子。 「あんたが、ロリコンだったとは知らなかったわ」 と、綾子。 「おや、女の子は若いほうがいいに決まってるじゃねぇか。なー、麻衣ちゃん」 「ねー、ぼーさん」 「若いコのほうがいいんだったら、あんたが真沙子にアタックすれば? そしたらアタシが……」 ……こいつっ。 「俺、見る眼あるから、真沙子より麻衣ちゃんのほうがいいー」 ……え? 「真沙子より性格いいしー」 ……うれしいこと言ってくれるじゃない。みどころのあるやつ。 「あー、あたしもぼーさん、けっこうハンサムかなーとか思ったのー」 「お、わかってるねー」 「うん(ハート)」 綾子はジトッとあたしたちをながめたあと、 「よしっ! ジョン、デートしよ!」 「え??? ボク……ですかぁ?」 「そ。おねーさんがおごったげるっ! さっ!」 ひきずるようにして綾子がジョンを立たせる。
……というわけで。 本日、以後ご来訪のお客様。もうしわけありませんが、あたしはいません。リンさんに相手をしてもらってくださいませ。なーに、そんなにこわいひとじゃありません。たぶん。 みょうに気があったりするかもしれません。 そーゆうことで、……よろしくっ。
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