先毡兢衰播楗戛`ニを産み落としました。ゲラーのスプーン曲《ま》げを見てまねした子供たちが、本当にスプーンを曲げはじめたんです。その内の幾人かはマスコミの注目を集めました。 産砂恵《うぶすなけい》もそのひとりだった……」 笠井さんもタカも、あたしたちも、産砂先生の横顔を見つめた。微笑を浮かべたままの少女めいた横顔。 ……笠井さんたちに理解があったはずだ。笠井さんは産砂先生のまさしく後輩だった。「ゲラーの権威の失墜に合わせて、日本でもサイキック狩りが始まりました。子供のほとんどはインチキだと決めつけられ、中の何人かはそう告白し、あるいは告白を強制、ねつ造された」 産砂先生は答えない。不思議な微笑みを口元に張り付けたまま。 「産砂恵は、トリックを告白した子供の中のひとりだった」 しんとした間。 長い沈黙のあと、先生はやっと口を開いた。 「わたしは……ぜったいに、インチキなんてしなかった」 微笑が消える。先生が真剣な顔をあげた。 「わたしはちがうって言ったのに、雑誌の記者が勝手に……」 「あなたの……日本の不幸は、ESPの判定をマスコミに任せたことにあります。権威のある研究機関が日本にはなく、あなたがたの能力の真偽を測る方法がなかった」 ナルは視線を落とす。 「マスコミなんかに任せちゃ、いけなかったんです。彼らが欲しいのはセンセイションで、真実ではない」 「…………」 ナルは軽く息をつく。 「『エスパーのペテンを暴《あば》く』と題した雑誌の特集で、先生の写真を見つけました。まだセーラー服を着てましたが、あれは先生です。おもかげがあるし……名前も同じ。『産砂《うぶすな》』というのは変わった名字ですから」 「……わたしです」 「連続写真で、先生がイスを使ってスプーンを曲げるシーンがはっきり映っていました」 笠井さんが使おうとして、ナルに止められたあのトリック。 産砂《うぶすな》先生はホロ苦《にが》い笑いをつくる。 「……だんだんスプーンを曲げられなくなって……同じゲラリーニの友達からあの方法を習ったんです。それでも……一度しか使いませんでした。その一度をたまたま撮《と》られていて……」 先生はうつむく。 「わたしには、笠井さんのように、そんなことをしてはいけないと言ってくれるひとはいまんでした。誰《だれ》も……できないときはできないと言っていいのだと……教えてくれなかった……」 ナルがうなずく。 「そもそもの事の起こりは、笠井さんだったんですよね? 彼女が、TVでスプーン曲げを見てスプーンを曲げてしまった。笠井さんと沢口さんはそれを先生に相談し……」 産砂先生が首をうなずかせる。 「……ええ。わたしはできるだけ、笠井さんの才能を守ってあげようと思いました。ただ、いつの間にか周囲に騒がれて……」 「教師たちの攻撃がはじまった」 「はい。超能力なんてないんだと決めつけて。朝礼のときに笠井さんを攻撃したその前にも、何度も笠井さんをしかっているんです。ウソはいけない、そんなにまわりの注目をあびたいか……って。わたしにも、なんできちんと指導をしないんだと……」 ナルが声を落とす。 「攻撃に耐えかねて、沢口さんが登校拒否をはじめた」 「……はい。これでは沢口さんの将来はメチャクチャになると思いました」 「……それで、ですか?」 それであんな呪詛《ずそ》を始めたのですか。 先生は微笑《ほほえ》む。 「……ええ。ほんのイタズラだったんです。わたしはくやしくて……。 ……魔がさしました」 いたずらを見とがめられた子供のような微笑み。決して笑えるはずのない、この場面で。 「イタズラですむのですか? 厭魅《えんみ》というのは人を積極的に害するための呪法です。人を狂わせ、殺すための。幸い死人は出ませんでしたが、それも時間の問題でした。少なくとも魔の席だけでも、次に座った学生こそは、電車に巻きこまれて死んだかもしれない」 ナルが冷たい声を投げた。 産砂先生はさも不思議そうにナルを見つめる。 「たしかに、それは不幸なことですけど……。 でも、そうなれば、みんな思い知るでしょう? この世には科学なんかじゃ割り切れないものがあるって」 ……ああ。 あたしは絶望的な想いで、不思議そうに首をかしげている女性を見た。 うつむいてしまった笠井さんの肩にタカが手をまわす。 ……このひとは、狂っているんだ……。 『超能力』『呪詛《ずそ》』『オカルト』『超心理』……名前はなんでもいい。そんな魔法にのみこまれて、人として守らなければいけない場所を見失ってしまったんだ。 ナルもまた、眉《まゆ》をひそめて自分の前で無邪気なほどキョトンとしている女性を見つめた。 ナルは産砂《うぶすな》先生をまじまじと見つめてから、深いため息をついた。 「ぼーさん」 視線を彼女からはずし、ぼーさんをふりかえる。 「校長に報告を。この女性にはカウンセラーの力が必要だ」 「……ああ」 ぼーさんはうなずき、病室を出て行く。産砂先生はそれを怪訝《けげん》そうに見送って、ナルにとがめるような視線をむけた。 「……失礼な。あなたは超心理学者のはしくれなのではないの? なのにわたしをノイローゼあつかいするつもり?」 「……先生は疲れていらっしゃる。休息が必要です」 ナルは産砂先生を見つめる。先生がなおも不服そうにしたので、言葉をつけ加えた。 「呪詛には……体力と気力を使いますから」 ナルに言われて、産砂先生はやっと微笑《ほほえ》みを浮かべる。 「そうね……そうかもしれないわ」
あたしはその、無垢《むく》な笑顔を忘れることができないだろう。
エピローグ
まいど、まいどの、東京、渋谷《しぶや》。道玄坂《どうげんざか》。 『渋谷サイキック・リサーチ』。そのオフィス。
今日も今日とて、オフィスの中は人でいっぱいなのである。霊能者の団体様のおなり、ってなもんだ。最近、来客のそれより、こいつらの出入りする回数のほうが多いような気がしてならない。 「茶店がわりにするなとゆーとろーが」 入って来るなり、当然の権利ように、「ダージリン、ストレート」などとほざく綾子《あやこ》を、あたしはおもいっきりねめつけてやる。 「冷たいんじゃない? 苦楽をともにしている仲だっていうのに」 「一方的に迷惑をこうむっている気がするんですが」 「けっこう言うわね」 「おや、いままでお気づきでなかった?」 「知ってたわよ」 「だったら問題はないじゃない。皮肉を覚悟《かくご》で来てるんでしょーが」 綾子は黙ってしまう。 け。ざまーみろ。 それでも、けっきょくはあたしって、お茶をいれに立つわけよね。ああ、けっこう、おひとよし。綾子にはダージリンのストレート。ぼーさんにはアイスコーヒーで、ジョンにはホット。真砂子《まさこ》には日本茶、とくらぁ。せめてオーダーを統一するとか、出されたものを黙って飲むとかせんか? こいつら(もっとも、ジョンは除外。いつも「おかまいなく」と言ってくれるので)。 あたしは心の中でブツブツ言いながら、飲み物を配《くば》ってまわった。 本日、例によってナルは瞑想中《めいそうちゅう》。リンさんは資料室で資料の整理。 ……と思ったところで当のナルが出てきた。 「麻衣《まい》」 声をかけてから、事務所の中を見てウンザリした表情をする。 「はい、何でございましょう」 にこにこ。 あたしは思いっきり親切に笑ってしまう。なんせわが所長は一昨日、一週間におよぶ入院から退院なされたばかりなので。 所長はソファーを示した。 「そこに座《すわ》って」 「はぁい」 「リン」 ナルが資料室に声をかけると、リンさんが出てきた。 リンさんは小さな機械を手に持っている。英語の辞書みたいな無骨《ぶこつ》な形の機械だ。 「ちょっと実験に協力してもらう。いいか?」 ナルは機械の表面についた小さなLED(電球みたいなやつよ)を示す。横に四個並んだLED。それぞれに番号がついている。LEDの下にはスイッチの列。一から四まで番号がついている。 「これからこの機械が勝手に四個のうち、どれかを光らせる。どれが光るか、前もって予想して、光ると思う素子の下のスイッチを押すんだ。おまえでもできるな?」 「……できるけど……。なに、これ」 「サイ能力のテスト」 サイ能力というと……超能力。げーっ。 「ムダだよぉ。トランプ当てでも、あたし当たったためしがないもん」 「やるのか、やらないのか?」 しんねりした声。 「……やるよ。やりゃーいーんでしょ」 まったくもー。あたしにそういうシャレた能力があるわけないでしょーが。あったら、もっと生活の役にたててるわ。テストの答えを当てるとかさ。 ぶつぶつ。 機械が勝手に光をともす。あたしは予想するというよりも、てきとーにスイッチを押すという感じで実験とやらにつきあった。ギャラリーが面白そうにそれをながめている。 実験とやらはなんと二時間近くも続いた。もー、うんざり。でもって、結果は最悪。当然予想できたことだが、一個も当たらない。 「……だからぁ……ダメだって言ってるじゃない……」 あたしが言ってるそばから、綾子や真砂子が「やっぱりねー」とか、かまびすしい。 ちっ、また恥《はじ》かいちゃったぜ。 ナルは実験の結果を打ちだした紙をながめる。 「……やはりな……」 「なにが」 「麻衣は潜在的にセンシティブだ」 は? 綾子と真砂子が吹き出す。 「センシティブ? 麻衣が!? 『こまやかな』『感受性の強い』!?」 わぁーるかったな、ズ太くてよ。 ナルが大笑いするふたりを軽蔑《けいべつ》の目つきでながめる。 「センシティブ。サイ能力者。ESP。超能力者」 ごっ! ご冗談っ!! 「どうりで、馬鹿《ばか》のわりにはするどいと思った。今回、変なカンを発揮《はっき》したのも偶然じゃいなかもしれない」 えっえっぇっ。 あたしは思わずキョロキョロしてしまった。 「千回のランに対して、ヒットがゼロ」 「は?」 「千回やって、一度も当たらなかったということ」 「悪かったね」 ふてくされるあたしを、ナルが怪訝《けげん》そうに見る。 「なぜ?」 言ってプリントアウトを示し、 「千回ぐらいやると、ほぼ正解率は確率どおりになるはずだ。正解する確率は四分の一。二十五パーセントはあたって当然なんだ。これより多くても少なくても普通でないことになる」 ……普通でないって……、ひとを変態みたく言わないでくれる? 「じゃあなに?」 綾子が身を乗りだした。 「麻衣は超能力者だって言うわけ?」 「……そういうことになるな」 ……ほえー……。あたしが。 なんと言えばいいんだろう。まるで、いきなりスポットライトがあたった気分。 「なるほど。それで今回、見事な第六感を発揮してくれたわけか」 ぼーさんが言うと、綾子が、 「だったらー、なんでいままでなんの役にもたたなかったわけ? 今回が初めてじゃない」 「どうかな」 言ったのは、ぼーさんだ。 「なによ」 「麻衣は鋭《するど》いと思ってたぜ、俺は」 「またぁー。あんたって、すぐナルにヒヨルのね」 「べつにぃ。麻衣はめだたんけど、前回『森下事件』でけっこう役にたってたからな」 あら、ぼーさん、ありがとー(ハート) 「うそよ」 「うそじゃないさ。前回、麻衣は変な夢を見てるだろ」 ……ぎくっ。ナルの夢の話は誰《だれ》にもしてないぞ。なんで知ってんのよぉ。さてはタカめ、バラしたなっ! 「ホラ、井戸の中におっこちたとき、変なことを言ったらしいじゃないか」 なんだ……あれか。ほっ(タカ、うたがってゴメン)。 「麻衣はどうやらあの家の過去を見たらしい。普通の人間にできることか? ありゃねポスト・コグニションに近い能力なんじゃないか?」 ……あたってればねぇ。確かめる方法はないもんなー。 「それと、子供」 「はぁ?」 「だから、台所でガス管が火を吹いたとき、子供の姿を見てるだろ。あのとき、すぐにあの子……礼美《あやみ》ちゃんだっけか、あの子の部屋に行ったら、子供はちゃんと部屋にいた。 麻衣が見たのは霊なんじゃねぇの?」 ……ぽかーん。そっか、そう言われてみれば……。 ナルがクスリと笑いをもらす。 「ぼーさん、見ていないようで見ているな。……その通り」 「……と、いうことはだ、ナルちゃんも」 「変だと思っていた」 みんなの視線が集中する。みそっかすのあたしに。 ……あたしって、スゴイのかも……しんない。 やった、らっきー! 「でも」 不服そうなのは真砂子だ。 「言うほど大した能力ではありませんわ。 あの家の霊は強かったんですもの。たいして霊感のない人間にも見えるほど霊の力が強かっただけですわ」 「でも、今回はあんたに見えない霊を見てるわね」 綾子ってばいじわる。真砂子がキッと綾子をにらみつけた。 「こんなことは初めてですのよ。きっと特殊な例だからですわ」 「だといいけど? よくあるじゃない、ハタチすぎれば、ただのヒト」 「それでも、最初からまるで役にたたない誰《だれ》かよりはましですわ」 にらみあう女ふたり。ジョンがまぁまぁ、と間に入ってなだめる。 ナルはそれにはしらんぷりで、 「麻衣は害意のあるものに対して、異常なほど敏感だな」 へ? 異常……。 「強い邪悪を感じとる能力がある。霊でも、強い害意を抱いている霊を見るんだ。 自己防衛本能だな。動物といっしょだ。敵をかぎわける」 「あ、なるほどー」 綾子はサワヤカに笑う。 「動物って、そういう能力があるものねぇ。ふーん、ケダモノ並みなんだー」 「精神的な先祖返りだな。 ときどき、全身を体毛におおわれた子供や、尻尾《しっぽ》のある子供が生まれることがある。あれは先祖返りなんだが、それの精神的なやつ」 ……あたしが、ケ・ダ・モ・ノだとぉー。 綾子はいかにも楽しげだ。 「つまり、カラダは人間でも、ココロは野生の動物なのねー。なるほどー」 ……こいつらはーっっ。 「ナル」 おこったぞ、あたしは。 「言うからね」 ドスのきいた声で言って、ナルをにらむ。とたんにナルがハッとした。 「だーれが、ケダモノだって? だーれが先祖返りだって? 異常だって? え?」 「いや……それはもののたとえで」 おお。めずらしい。ナルのあせった顔。 「んじゃ、ナルはなんなのよ? スプーンを曲《ま》げるのは異常じゃないのか?」 とたんにしんとするオフィス。 「さわっただけでスプーンを曲げて、ちぎっちゃうのは、なーんなのかなー。正常な良識ある人間の、人間的な行為とは思えないんだけどーぉ」 みんながギョッとしてナルをふりかえる。 「ちょっと」 「ナル」 「まさか」 口々に言う中で、ひときわ大きな声。 「ナル!」 ……リンさんかぁ? リンさんは怒っていた。明らかに怒っていた。 「そんなことをしたんですか!」 ナルが首をすくめる。十七の子供みたいに。 「絶対にやらないと……」 「麻衣っ!」 へーん。怒鳴ったって遅いよぉ。もう言っちゃったもんねーだ。 「ナル、いいですか! あなたは」 「わかった、いや、わかってる」 「わかってません!」 世にもめずらしい。あたしたちは思わずその異常な風景に見入ってしまった。 怒鳴るリンさんと、あせるナル。 ぽくぽく、ぼーさんが手を叩《たた》いた。 「いやぁ、ナルにそんな隠し芸があったとは、ぜひ俺たちも拝見したい」 「あ、アタシもっ!」 ウンザリしたように、ナルがため息をついた。 「麻衣……覚えてろよ」 べー。 「見たい、見たい! 麻衣だけなんてずるい」 「そうですわ、ぜひ」 ふたたび、ナルの深いため息。そうして、自分のカップからティー・スプーンを取りあげる。 「ナル!」 リンさんの強い声。それになげやりに手を振って、 「まぁまぁ。こうなったら仕方ないだろう? ……いいか?」 ナルがスプーンを構える。右手に親指と人差し指だけでスプーンを持って、左手を添える。左手は人差し指を一本だけ。スプーンの頂上に軽く当てる。すっ、とスプーンが内向きに曲がった。 「ほら」 曲げたスプーンを綾子の方へ投げてやる。 「……すごいじゃない」 綾子は言いながら自分でも試してみる。あたしも思わず自分のティー・スプーンをとって試してみる。こう……でしょ。ナルのやったように構える。指二本で支えただけのスプーンは、力をかけて押すと傾いてしまって、曲げることはできない。 ……すごいなぁ。 コホンと咳払《せきばら》いしたのは、ぼーんさだ。 「あのなぁ……」 「なにか?」 「おまえ、本当にいい性格、してるな」 え? 驚いてぼーさんを見る。ぼーさんは、 「おまえらも、簡単に感心してんじゃねぇっ! いまのはナルが指の力で曲げたんだよっ!」 「えー? だって、曲がんないわよ、これ」 「曲げたの! 俺は横から見てたから一発でわかった」 「だって」 「ナルは、スプーンの柄《え》を掌《てのひら》で支えてた」 え? あわてて試す。スプーンを持って、柄の端を掌にあてて。これで押すと……。 確かに曲げられるわ。力さえあれば。げんにジョンが曲げた。 「仮にも超心理学研究者が、こういうことをして他人をたばかってもいいのかな? え?」 ナルは涼《すず》しい顔だ。 「サギの被害にあわないいちばんの方法は、サギの手際を知りつくすことだ」 ……あぜん。 「……手品の趣味があると聞いてたが……それでか」 「もちろん」 ……あくまで仕事がらみなのな。てめー。 リンさんの深いため息。ナルが声をかける。 「もうしない。約束する」 「守っていただきたいものですね」 「絶対」 「どうですか」 ふたたびリンさんが、深ーいため息をついた。
……それはもとかく。 先祖返りだろうがなんだろうが、あたしはみそっかすではないんだ! 一歩も二歩もみんなに近づいた感じ。 よぉーし、おぼえてろよ、てめーら。もう役たたずなんて言わせないからねっ!
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