皮螭韦瑜¥丹皮膝骏帷ⅴ啸椁筏郡胜茫 「ホラ、井戸の中におっこちたとき、変なことを言ったらしいじゃないか」 なんだ……あれか。ほっ(タカ、うたがってゴメン)。 「麻衣はどうやらあの家の過去を見たらしい。普通の人間にできることか? ありゃねポスト・コグニションに近い能力なんじゃないか?」 ……あたってればねぇ。確かめる方法はないもんなー。 「それと、子供」 「はぁ?」 「だから、台所でガス管が火を吹いたとき、子供の姿を見てるだろ。あのとき、すぐにあの子……礼美《あやみ》ちゃんだっけか、あの子の部屋に行ったら、子供はちゃんと部屋にいた。 麻衣が見たのは霊なんじゃねぇの?」 ……ぽかーん。そっか、そう言われてみれば……。 ナルがクスリと笑いをもらす。 「ぼーさん、見ていないようで見ているな。……その通り」 「……と、いうことはだ、ナルちゃんも」 「変だと思っていた」 みんなの視線が集中する。みそっかすのあたしに。 ……あたしって、スゴイのかも……しんない。 やった、らっきー! 「でも」 不服そうなのは真砂子だ。 「言うほど大した能力ではありませんわ。 あの家の霊は強かったんですもの。たいして霊感のない人間にも見えるほど霊の力が強かっただけですわ」 「でも、今回はあんたに見えない霊を見てるわね」 綾子ってばいじわる。真砂子がキッと綾子をにらみつけた。 「こんなことは初めてですのよ。きっと特殊な例だからですわ」 「だといいけど? よくあるじゃない、ハタチすぎれば、ただのヒト」 「それでも、最初からまるで役にたたない誰《だれ》かよりはましですわ」 にらみあう女ふたり。ジョンがまぁまぁ、と間に入ってなだめる。 ナルはそれにはしらんぷりで、 「麻衣は害意のあるものに対して、異常なほど敏感だな」 へ? 異常……。 「強い邪悪を感じとる能力がある。霊でも、強い害意を抱いている霊を見るんだ。 自己防衛本能だな。動物といっしょだ。敵をかぎわける」 「あ、なるほどー」 綾子はサワヤカに笑う。 「動物って、そういう能力があるものねぇ。ふーん、ケダモノ並みなんだー」 「精神的な先祖返りだな。 ときどき、全身を体毛におおわれた子供や、尻尾《しっぽ》のある子供が生まれることがある。あれは先祖返りなんだが、それの精神的なやつ」 ……あたしが、ケ・ダ・モ・ノだとぉー。 綾子はいかにも楽しげだ。 「つまり、カラダは人間でも、ココロは野生の動物なのねー。なるほどー」 ……こいつらはーっっ。 「ナル」 おこったぞ、あたしは。 「言うからね」 ドスのきいた声で言って、ナルをにらむ。とたんにナルがハッとした。 「だーれが、ケダモノだって? だーれが先祖返りだって? 異常だって? え?」 「いや……それはもののたとえで」 おお。めずらしい。ナルのあせった顔。 「んじゃ、ナルはなんなのよ? スプーンを曲《ま》げるのは異常じゃないのか?」 とたんにしんとするオフィス。 「さわっただけでスプーンを曲げて、ちぎっちゃうのは、なーんなのかなー。正常な良識ある人間の、人間的な行為とは思えないんだけどーぉ」 みんながギョッとしてナルをふりかえる。 「ちょっと」 「ナル」 「まさか」 口々に言う中で、ひときわ大きな声。 「ナル!」 ……リンさんかぁ? リンさんは怒っていた。明らかに怒っていた。 「そんなことをしたんですか!」 ナルが首をすくめる。十七の子供みたいに。 「絶対にやらないと……」 「麻衣っ!」 へーん。怒鳴ったって遅いよぉ。もう言っちゃったもんねーだ。 「ナル、いいですか! あなたは」 「わかった、いや、わかってる」 「わかってません!」 世にもめずらしい。あたしたちは思わずその異常な風景に見入ってしまった。 怒鳴るリンさんと、あせるナル。 ぽくぽく、ぼーさんが手を叩《たた》いた。 「いやぁ、ナルにそんな隠し芸があったとは、ぜひ俺たちも拝見したい」 「あ、アタシもっ!」 ウンザリしたように、ナルがため息をついた。 「麻衣……覚えてろよ」 べー。 「見たい、見たい! 麻衣だけなんてずるい」 「そうですわ、ぜひ」 ふたたび、ナルの深いため息。そうして、自分のカップからティー・スプーンを取りあげる。 「ナル!」 リンさんの強い声。それになげやりに手を振って、 「まぁまぁ。こうなったら仕方ないだろう? ……いいか?」 ナルがスプーンを構える。右手に親指と人差し指だけでスプーンを持って、左手を添える。左手は人差し指を一本だけ。スプーンの頂上に軽く当てる。すっ、とスプーンが内向きに曲がった。 「ほら」 曲げたスプーンを綾子の方へ投げてやる。 「……すごいじゃない」 綾子は言いながら自分でも試してみる。あたしも思わず自分のティー・スプーンをとって試してみる。こう……でしょ。ナルのやったように構える。指二本で支えただけのスプーンは、力をかけて押すと傾いてしまって、曲げることはできない。 ……すごいなぁ。 コホンと咳払《せきばら》いしたのは、ぼーんさだ。 「あのなぁ……」 「なにか?」 「おまえ、本当にいい性格、してるな」 え? 驚いてぼーさんを見る。ぼーさんは、 「おまえらも、簡単に感心してんじゃねぇっ! いまのはナルが指の力で曲げたんだよっ!」 「えー? だって、曲がんないわよ、これ」 「曲げたの! 俺は横から見てたから一発でわかった」 「だって」 「ナルは、スプーンの柄《え》を掌《てのひら》で支えてた」 え? あわてて試す。スプーンを持って、柄の端を掌にあてて。これで押すと……。 確かに曲げられるわ。力さえあれば。げんにジョンが曲げた。 「仮にも超心理学研究者が、こういうことをして他人をたばかってもいいのかな? え?」 ナルは涼《すず》しい顔だ。 「サギの被害にあわないいちばんの方法は、サギの手際を知りつくすことだ」 ……あぜん。 「……手品の趣味があると聞いてたが……それでか」 「もちろん」 ……あくまで仕事がらみなのな。てめー。 リンさんの深いため息。ナルが声をかける。 「もうしない。約束する」 「守っていただきたいものですね」 「絶対」 「どうですか」 ふたたびリンさんが、深ーいため息をついた。
……それはもとかく。 先祖返りだろうがなんだろうが、あたしはみそっかすではないんだ! 一歩も二歩もみんなに近づいた感じ。 よぉーし、おぼえてろよ、てめーら。もう役たたずなんて言わせないからねっ!
|