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悪霊シリーズ第4巻 悪霊はひとりぼっち
作者:    出处:    发表时间:2007-09-20    浏览次数:     

【悪霊はひとりぼっち】
           【小野不由美】

 

プロローグ


「ふぅ……ん」
 思わずつぶやきながら、あたしは新聞をデスクの上に広げた。活字の上に頬杖《ほおづえ》をつく。 新聞の三面に、大きな活字が並んでいた。
 新聞の三面に、大きな活字が並んでいた。
『生徒三十五人、集団ヒステリー』
 昨日、千葉にある公立高校で起こった事件。授業中、あるクラスの生徒が眼に見えない黒犬に手足を噛《か》まれた、と訴《うった》えて大騒《おおさわ》ぎになったらしい。「……はぁー」
 あたし、谷山麻衣は十六歳の学生でアル。ま、自分で言うのもなんだけど、ごくフツウのマジメな学生だ(本当だってば)。けど、ちょっと変わったアルバイトをしているんだ、これが。そのバイト先が今新聞を読んでいるここ、『渋谷《しぶや》サイキック・リサーチ』。
 東京は渋谷の一角にオフィスを構える、わが『渋谷サイキック・リサーチ』は、心霊現象の調査事務所だ。つまり、幽霊や超能力や、そういう心霊現象と呼ばれる不可思議《ふかしぎ》な事件を調査する団体。
 まぁ、こういうところでアルバイトなんかをやってると、幽霊屋敷《やしき》やらに出かけることもあるわけで。当然、世にもめずらしい体験をすることになる。幽霊にお会いするとか、超能力少女とお友達になるとか。
 そんなあたしだけど、この新聞記事にはみょうに感動してしまったのだ。
 何度も記事を読んでいたら、千秋《ちあき》センパイに声をかけられた。
「どーしたの、麻衣」
 読んでいた本から顔をあげて、あたしの顔を見ている。
 笠井《かさい》千秋。十八歳、都内の女子高校に在学中の超能力少女。スプーン曲《ま》げが得意だったけど、ちょっとスランプ。現在『渋谷サイキック・リサーチ』に不調脱出のためトレーニングに通っている。
「なんかあった?」
 聞きながら新聞をのぞきこんでくる千秋センパイに、あたしは問題の記事を示した。
「ほら、これ。また緑陵《りょくりょう》高校だよ」
 緑陵高校。近ごろ一週間とおかず新聞に登場する学校だった。
「またかぁ。今度はなに?」
「黒犬に噛まれるって、教室がパニックになったんだって」
「いぬ?」
「うん。先生には見えなかったんだけど、生徒がみんな噛《か》まれたって騒ぎ出したって、噛まれたって訴《うった》えた学生の中には、本当に犬かなにかに噛まれたみたいなケガをしてる人もいたんだって」
「へぇぇ……原因は?」
「集団ヒステリーってことになってるよ。『同高校では近ごろ不可解な事件が続いており、これに動揺《どうよう》した生徒が軽いヒステリーを起こし、さらにそれが他の生徒にも伝染したと考えられる』……だって」
「でも、ケガした人もいるんでしょ? それは?」
「説明、ナシ」
「ま、ありがちだわね」
 緑陵高校はここひと月ほどの間に、新聞にのっただけですでに四件の事件が起きている。
「最初は何だっけ」
「集団登校拒否だったかな」
 あるクラスの女の子全員が、幽霊が出ると言って、学校を休んだのが最初だった。
 次に報道されたのが、集団中毒事件。あるクラスの生徒が半数近く、急に吐《は》き気《け》を訴えて苦しみだした。食中毒の症状に似ていたけど、けっきょく食中毒ではなかったらしい。原因は不明のまま。
 千秋センパイは天井《てんじょう》をにらむ。
「んー、その次が更衣室の火事か」
「正確に言うと、ボヤ。秋以来、体育館の更衣室で何度かボヤが続いているのが、バレたんだよね。それを新聞にスッパぬかれたというわけ」
「放火じゃないの?」
「それが、教師が厳重に見張ってたらしいんだよね。鍵《かぎ》までかけて、ぜったいに人が入れるはずないのに、ボヤが起こったの」
 話をしながら、あたしは新聞にハサミを入れる。問題の記事を切り抜くために。ハサミを使いながら、
「その次、四番目が除霊事件。
 学生がこれは何かのタタリだって、自分たちで除霊をしようとしたんだ」
 千秋センパイは指をはじく。
「何か月か前に、自殺した生徒がいたんだ」
「うん。九月ぐらいに自殺した男の子がいて、その子のタタリだって信じてたらしいのよね。その除霊をするって言って体育館に集まってて、それを先生はやめさせようとして、けっきょくケンカになったの」
「……で、今度で五回目か」
 千秋センパイは、あたしが切り抜いた新聞記事をつまみあげる。目の前にかざしたところで、声がした。
「何が五回目?」
 あたしと千秋センパイが声のした入り口のほうを見ると、ちょうどタカがコートを脱《ぬ》いでるところだった。
 タカ。本名、高橋優子《たかはしゆうこ》。十七歳、学生。千秋センパイの後輩。もともとは、我が『渋谷サイキック・リサーチ』に事件の依頼《いらい》をしてきた人なのだけど、最近はアルバイトとして雑用をやりに来てる。
 タカはちょこちょこ歩いてきて、あたしたちの手元をのぞきこむ。
「なぁに?」
 千秋センパイが切り抜きを見せた。
「緑陵高校。まただってよ」
「またぁ? すごいねー」
 タカの言葉に、あたしは身を乗り出してしまう。
「タカもそう思う? やっぱ、これってすごいよねぇ」
「だよねぇ」
 千秋センパイはパチクリしている。
「すごい……?」
 あたしはうなずく。
「だってさー、こういう不可解な現象というか」
「怪奇《かいき》現象と言うか」
「心霊現象と言うか。そういうものって、社会の裏側でひっそり、こっそり起こるもんだ、って気がするじゃない」
「だよねー。けっきょく、ウチの学校の事件だって、表ザタにはならなかったし」
「うんうん。それがさー、こーんな大きな活字で新聞にのって」
「TVのワイド・ショーなんかに出て」
「すごいよねー」
「ねー」
 うなずき合うあたしとタカを、千秋センパイはあきれたようにながめた。
「……そんなもんかね」
「そおゆうもんよ」
 うなずいてタカは、あたしのカップをかすめ取る。
「こらこらっ」
「まぁまぁ」
 言ってそれを飲《の》み干《ほ》してから、
「でも、所長も欲がないねー。これだけの大事件、メジャーになるチャンスなのに」
 あたしと千秋センパイが、ビックリするようなことを言った。
「……なに、それ」
「あれ? まだ所長に聞いてない?」
 聞いてないぞ、何も。
「昨日《きのう》、来たよ。緑陵高校の校長」
 えええーっっ!
 タカはコロコロ笑っている。
「それがさー、ウチって学校関係者の間ではけっこう有名なんだって。ほら、麻衣の学校とあたしの学校と、ふたつも事件を解決したじゃない。それで事件の依頼に来たってわけ」
 ほぇぇ……。そうだったのか。
 うーむ、あたしは昨日、学校の用事でバイトを休んだんだよな。それはおしいことをした。せめて校長の顔くらい見ておきたかったなー。……べつに、見たからどうってもんじゃないけど。
 千秋センパイが声をひそめる。
「で? 断《ことわ》ったの?」
「ウン。アッサリ。派手《はで》な事件はイヤなんだって」
 それは、もったいない。
 千秋センパイも。
「もったいないことをしたもんだ」
「だよね。こーんな大きな事件を解決したら、ここも一躍《いちやく》有名なのに。みんなしてTVの取材なんかうけたりしてー」
「所長なんか、一発で有名人だ」
「そうそう。所長って、顔いいから、ファンクラブなんかできたりして」
 
 ……ま、まさか。いや、……ありうるかもしれない。とにかく、顔だけは尋常《じんじょう》でなくいいから。ただし性格が、おつりが来るくらい悪いけど。
 考えこんでると、タカと千秋センパイが意味深な顔であたしのほうを見ていた。
「……なんだよー」
「よかったね、断ってもらえて」
 タカが思いっきり声をひそめる。
「そうそう。これ以上、ライバルが増えずにすんで」
 千秋センパイまでー。
 やめろよー、当の本人が隣《となり》の部屋にいるのにー。聞こえたらどーすんだ。
 我が『渋谷サイキック・リサーチ』の所長、渋沢一也《しぶさわかずや》。聞いて驚《おどろ》きの十七歳。若いみそらで、都心の一等地にゴーカな事務所なんか構えてくれちゃって。顔がよくて有能で、おシャカさまもハダシで逃げ出すナルシスト。略して「ナルちゃん」。
 なんせ、とある女性(本人の名誉《めいよ》のために特に名を秘《ひ》す)に交際を申し込まれて、「残念ですが、僕《ぼく》は鏡を見なれてますので」と答えたヤツ。つまり、鏡で自分のキレイな顔を見なれてるから、おまえなんかの相手はいやだ、と。
 冗談《じょうだん》じゃないよ。あたしは、そんなこと言われんのは死んでもやだ。
 ――てなことを、しみじみ考えていたときだった。
 オフィスのドアが開いた。見ると、あたしと同じ年頃の男の子が立っていた。応対に立ったあたしに、彼はアゼンとするようなことを言ってくださった。
「緑陵高校の安原《やすはら》と申します」

 所長室から出てきたやたらに顔のいい男の子を見て、安原さんはさすがに驚いたようだった。まぁ、これはいつものこと、彼は今まで来たどんなお客よりもすばやく立ち直った。
 顔をひきしめ、目の前に座《すわ》ったナルに頭を下げる。
「緑陵高校の生徒会長をしています、安原修《おさむ》といいます。ここに」
 彼はカバンの中から数枚の紙をとじたものを取り出した。それをまっすぐナルに突《つ》きつける。
「……生徒たちの署名を持ってきました。全校生徒を代表してお願いします」
 長い身体《からだ》を追って深く頭を下げた。
「校長からの依頼を、引き受けていただけないでしょうか」
 ナルは受け取った署名をテーブルに置く。白い指を組んで膝《ひざ》にのせた。
「この件につきましては、昨日《きのう》校長先生にお断《こわ》りさせていただきました」
 安原さんはナルをまっすぐに見る。
「聞いています。お断りになったのも聞きました。それでも、お願いしたいのです」
 真剣な声で言う。
「ご存知のように、今学校はひどい状態です。それでなくてもみんな動揺しているところに、マスコミの取材です。そのうえ、最初はありがちな怪談でしかなかったのに、最近ではケガ人まで出るようになりました。このままでは何が起こるかわかりません。どうか、お力をお貸しください」
 ナルは考えこむ。少しして口を開く。
「……正直《しょうじき》言って、緑陵高校の事件には興味を持っています。しかし、僕《ぼく》はマスコミと関わりあいになるような事態は、避《さ》けたいのです」
「お気持ちはわかります。今、僕も迷惑をしてるひとりですから。だからいっそう、早く事件が解決されることを願ってるんです。
 今学校には、くさるほどの怪談が飛びかっています。誰もが不安で、心細い重いをしています。その署名は」
と、安原さんは、テーブルに眼をやった。
「今朝《けさ》、依頼が断られたと聞いてから、もう一度お願いしてみようと学校を出るまでの間に集めました。半日ほどで集めたものなんです。それでもそれだけの数が集まりました」
 そう言って、彼はもう一度頭を下げる。
「それほど僕らは助けを必要としています。どうか、お願いします」
 ナルは考えこむ。
 あたしはジリジリしてしまう。助けてあげてよ。――でも、言えない。あたしなんかがなにか言っても、それで心を動かされる人じゃない。
 ナルは闇色《やみいろ》の眼を伏せて、じっと考えこんでいる。安原さんは、そのようすをじっと見守る。
 やがてナルが顔をあげて、あたしのほうを振り向いた。

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责任编辑:Mashimaro

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