全だと思う?」 ……そうかぁ……。 「……言ってくれれば、よかったのに」 人形に転嫁《てんか》……振り替えるつもりだったのなら、そう言ってくれれば。 「転嫁は難しい。いくらリンでも全員助かるとは断言できないからな」 「……だって」 あたし、ナルにひどいことを言った。あやまらなきゃ、いけない。嫌《きら》いなんて言ってゴメン。 ……ううん。嫌いだ。あたし、ナルなんて嫌い。すこしもあたしのことを安心させてくれないとこ。言ってくれたらよかったのに。せめて、「できるかぎりのことはするから、信じてくれ」って言ってくれたら。何があっても信じていられたのに。安心していられたのに。 「……悪かった」 え? ナルの横顔。とても綺麗《きれい》な。 「ずいぶん酷《ひど》いもの言いをした。すまない」 ……ナル。 「麻衣はすぐ他人にのめりこむから……。つらかったろう、悪かった」 …………。 涙が出そうだ。大声で泣きたい。悲しいのかうれしいのか、自分でもよくわからない。 だから、ありったけの声を張り上げた。 「ずるいっっっ!!」 「……は?」 キョトンとするナル。 「あたし、あやまろうと思ってたのにっ! 先に言うなんて絶対にずるいっっっ!!」 「あのな……」 「ナルってば、そーやっていっっもオイシイとこばっかとってくっ! ずるーいっっ!」「こら」 「だって、ずるいもんっ」 ナルはあきれたような顔をする。白い手がのびる。あたしのオデコをピンとはじいた。 そうして微《かす》かに笑うと、事務室のほうへ行ってしまった。あたしはその猫《ねこ》のようにひそやかな足音を、とてもあたたかい思いで聞いていた。
「……焼き捨てて浄化《じょうか》してしまいましょう」 リンさんが体育館の中に積み上げた人形の山を見つめる。ナルがうなずいた。 「そのほうが安全だな。――ぼーさん、頼む」 「あいよ」 あたしたちが人形を集めている間に、校庭の片隅でぼーさんが護摩《ごま》を積み上げた。その上に人形の山を作る。 ぼーさんが火を放った。炎《ほのお》はすべてをのみこんで天を焦《こ》がすように見えた。
エピローグ
まいど、まいど、東京。渋谷《しぶや》。道玄坂《どうげんざか》。 『渋谷サイキック・リサーチ』。そのオフィス。――の下の喫茶店。 今日は慰労会《いろうかい》なのだ。うちあげと言うか、かつてないほど厳しかった事件のぶじ解決を祝って。 ええ、いちおう、ナルとリンさんにも声はかけたんですけどね。来るわきゃないよなぁ。あのふたりが。 「今回の、がんばったで賞は麻衣《まい》かな、やっぱり」 ぼーさんの声に綾子《あやこ》が笑う。 「無謀《むぼう》でしたで賞、のまちがいじゃない?」 「言えてる!」 冷たい声を出したのは、タカと千秋《ちあき》センパイ。そして、安原《やすはら》さん。 「……あーんな無謀なことをするなんてっ! 麻衣ってばなに考えてるのっ!」 タカに怒鳴《どな》られ、 「そうそう。もうちょっと自分を大切に……と言うか、身のほどをわきまえて、と言うか……」 千秋センパイにお小言をくらい、 「ですよね。話を聞いて寿命が縮《ちぢ》みました。あんなことをするとわかってたら、鎖《くさり》でつないどいたのに」 安原さんにまで言われ。 「……あたしは犬か?」 言い返してみたら、全員の声。 「そうっ!」 ……そんな、力をこめて言わなくたって……。 「麻衣ってば、身のほどをわきまえずに、誰《だれ》にでも吠《ほ》えかかるから」 綾子が言えば、真砂子《まさこ》が、 「あら、逆ですわよ。相手かまわずじゃれかかるんですわ」 「それは、言えてる。よくいるじゃねぇか。泥棒《どろぼう》見ても吠えずに尻尾《しっぽ》ふる、とほーもなく人なつこい犬」 ぼーさんってばひどい、しくしくしく。 そういえば、とジョンが安原さんを振り返る。 「……あの一年生の慰霊祭があったんですって?」 安原さんがうなずいた。 「ええ。全校で。……学校では、彼のタタリだってことになってますから。生徒会の主催でやって……やっと僕《ぼく》も引退できたし」 「そっか、安原少年は三年生のブンザイで生徒会長やってたんだっけか」 ぼーさんの言葉にちょっと不満気。 「そうですよ。入試のまっただ中なのに、もー。次の生徒会長候補がいなかったから。ま、なんとかなりましたけど」 あたしは聞いてみる。 「松山《まつやま》……なにか言ってきた?」 ワビを入れる、とかなんとか。 「なにも。でも、いちおうなにか考えてはいるんじゃないかな。慰霊祭のときもたいしてモンク言わなかったし」 「たいして……ってことは、ちょっとは言ったわけ?」 「言ってたよ。やっぱ、あの年になるとね、そう簡単に変わったりしないよ。なにがあろうとね。大人《おとな》ってそういう生き物だから」 ……うん。そうかもなぁ。 ぼーさんがストローの袋を安原さんに飛ばす。 「少年たちは、そういうオトナにならないようにしなさい」 「おや、もう大人のような口ぶりですね」 「老成したミリョクを感じるだろ?」 「そうですね(ハート)」 あのー、もしもし? 「ハートマークを飛ばすなよ、おめーは」 「うれしいでしょ(ハート)」 ……うくく。ぼーさん、また安原さんに遊ばれてやんの。 「でも、安原少年、あのあとびびったろ?」 「ああ、呪詛《ずそ》を返すって言われたあと?」 「そ。潔《いさぎよ》いと言ってたけどさー。ここだけの話にしてやるから」 ぼーさんに言われて安原さんは天井《てんじょう》をにらむ。 「でも、僕、信じてましたから」 「誰《だれ》を?」 ぼーさんの質問。しんとみんなが安原さんを注目する。 「自分を」 ……あらあらあら。 「――だってこの若さで死ぬほど悪いこと、した覚えないですから」 ……ま、そりゃそうでしょうが。 「ここだけの話ですが、何があっても自分だけは助かるはずだという、確信がありました」 「……お前さんは長生きするよ」 「むろん、そのつもりです」 きっぱり言われてぼーさんが頭をかかえる。 ま、安原さんのほうが役者が上だわね。 笑ってると、つんつんと服を引っ張られて、タカが首をかしげている。 「麻衣は?」 「あたし?」 「だからー、最後に除霊に行ったとき。これで死ぬかもと思わなかったの?」 …………。 千秋センパイが、 「恐怖感に正義感が打ち勝った、というやつじゃないの?」 ……あう。 「ちがうと思うな。谷山《たにやま》さんの場合……」 行ったのは安原さんだ。そして、申しあわせたように全員が、 「何も考えてなかった!」 ――そうですともっ! あたしはなにも考えてませんでしたよっ! どーせ、身のほどを知りませんよーだっ。 ぼーさんの感心したような一言。 「ま、この中でいちばん長生きするのは麻衣だな」 「言えてるー」 「だよねー」 人をサカナにして笑ってればぁ? はいはい。どーせあたしは長生きしますよ。 そうよ、長生きしてやる。核戦争が起ころうが、恐怖の魔王が降ってこようが生き延びて、長生きしてやるっ! 人類が滅亡《めつぼう》してあたしひとりが生き残ったら、労せずして地球の支配者よっ! 夕陽を背に高笑いしてやるわ。 谷山麻衣、十六歳。カンが当たろうとどーしようと、あいかわらず地位の向上しない、薄幸の少女であった。 ……ってか。 ちぇっ。
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