四、息子が家へ帰ってくるなり、もう知らない人に優しくするのはこりごりだと言う。聞くと、駅の階段を大きなカバンと紙袋をさげてよろよろしながら上っていたお婆さんに、「荷物、もってあげようか。」と声をかけたら、「いいえ、結構ですよ。近ごろ持ち逃げなんてのもあるからね。」と言われたのだそうだ。人がせっかく親切で言ってやったのにと怒っている。
* ~なり:~やいなや。 こりごり:もう二度と繰り返したくない気持ち。
問:文の中の「ばら」と「肥やし」の関係に当たるものはどれか。
1. 行き届いた手入れとたくさんの肥料。
2. 豊かな人間性と人性。
3. たゆまね心掛けとさりげない言葉や行動。
4. 優れた人格と豊富な経験。
正解:4
六、 すべての動物たち、いや、すべての生き物たちは、それぞれ定められた場所にその住みかを持つ。森に住むもの、平野に住むもの、水辺に住むもの、水中に住むもの。それぞれの住民たちを調べていくと、だれもかれもが見えない壁で隔てられ、切れない鎖で、世界の一定の場所につながれているのだということが分かってくる。人間も、その例外ではなかった。森に住む獣や、空を飛ぶ鳥と同じように、自然の前では小さくなっていたし、ろくに自由もなかった。自然との関係においては、我々の祖先も、外の生き物たちと変わらぬ奴隷に過ぎなかったのである。
だが、やがて人間は、その壁を通り抜けその鎖を断ち切る方法を見つけた。いまや人間は、お椀の舟で流れを下る一寸法師から魔法のじゅうたんで空を飛ぶ巨人に変身したかのようにみえる。
* 一寸法師:日本の昔話に登場する、身長3cm位の男の子。
問:文中の「奴隷」と同じ意味で使われている言葉は次のどれか。
1. 見えない壁。
2. 切れない鎖。
3. お椀の舟。
4. 一寸法師。
正解:4
七、...。それから二十年以上も経ったころ、卒業式の「蛍の光」も、一人一人いただくお免状を手にすることもなかった私たち、終戦の年のA小学校の卒業生たちが集まった。自分のことは棚に上げて、皆おっさん、おばさんになっていた。でも、性格っていうものはめったにかわるものじゃないなというのが私の実感で、口を開けば、ああ、あの子とすぐに思い出し、二十年の年月はいっぺんに吹き飛んだ。
(渡辺美佐子「りんごのほっぺ」)
* 「蛍の光」:日本の小・中学校の卒業式で必ず歌う歌。
お免状:ここでは卒業証書。
問:「自分」とはだれのことか。
1. 集まった卒業生たち。
2. 外の人のことをおっさん、おばさんと呼ぶ人達。
3. 口を開いた子。
4. 私(=筆者)。
正解:4
八、「転石 苔を生ぜず」という諺がある。...この諺は、イギリスで生まれたもので、住まいや職業を転々とするような人間に成功はおぼつかない、の意味で使われている。ところが、アメリカ人はこの諺を、優秀な人間は活動的で周囲からも誘いが多く、何もせずじっと座っていたりしないから、苔のような汚いものが付着することもない、の意味だと思っているようだ。どうしてそういう違った解訳がうまれたのか考えてみると、基本的にアメリカは流動社会であるのに、イギリスは定着社会であるという社会背景の違いから、イギリスでは否定的に解訳される「転石」が、アメリカでは肯定的に解訳されているためだと思われる。(外山滋比古「ことわざの理論」)
* おぼつかない:疑わしい、難しい。
問:この諺の中で「苔」はもともと何の象徴として使われているか。
1. 職業。
2. 成功。
3. 誘い。
4. 汚いもの。
正解:2
九、 「卒業式」谷川俊太郎
広げたままじゃ持ちにくいから/きみはそれを丸めてしまう
丸めただけじゃつまらないから/きみはそれをのぞいてみる
小さな丸い穴の向こう/笑っているいじめっ子/知らん顔の女の子
光っている先生のはげ頭/まわっている春の太陽
そしてそれらのもっとむこう/きみはみる
星雲のようにこんとんとして/しかもまぶしいもの
教科書には決してのっていず/蛍の光で照らしても
窓の雪で透かしてみても/正体をあらわさない
そのくせきみをどこまでも/いざなうもの
卒業証書の望遠鏡でのぞく/きみの未来
(谷川俊太郎詩集「どきん」)
* こんとん(混沌) いざなう:誘う
問:「こんとんとして/しかもまぶしいもの」とは何を指すか。
1. 春の太陽。
2. 星雲。
3. 望遠鏡。
4. 未来。
正解:4