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『野村美月』文学少女 txt日文版 连载1
时间:2009-07-16 13:06:27  来源:  作者:

「煙草、いいかしら?」

 近くの喫茶店に入り、ソファーに腰を落ち着けるなり訊かれた。

「えっと……」

 琴吹さんのほうを見ると、こくりとうなずく。

「はい、どうぞ」

 そんなやりとりを見て、粧子さんは優しく目を細めた。

「ありがと。喉に悪いってわかってるんだけど、やめられなくて」

 ライト系の細い煙草をくわえ、銀色のライターで火をつける。その仕草が、モデルのように決まっている。確かにすごい美人だ。流人くんはどこで知り合ったのだろう。

 粧子さんは声楽の先生で、水戸さんのことも知っていた。ずっと学校を休んでいるのだと、眉をひそめて語った。

「そろそろ十日になるかしら。寮にも帰ってないようだし。わたしも心配してたのよ」

「夕歌は、寮に入ってたんですか?」

 琴吹さんが、頬をこわばらせて尋ねる。

「ええ。秋にご両親が引っ越してしまったのでね」

 水戸さんのお父さんが、友達の連帯保証人になり、借金を肩代わりすることになってしまったことや、借金取りが職場にまで押しかけ、仕事を続けられなくなってしまったことなどを、粧子さんは辛そうに語った。

 その間、琴吹さんは、真っ青な顔で目を見開いていた。

「今月の発表会で、水戸さんは主役のトゥーランドットを演じることが決まっているわ。どうやらいい先生がついたみたいで、今年の夏頃から、水戸さんの声は劇的に変わったの。それまでは喉を潰すような無茶な歌い方をして、伸び悩んでいたのにね。一体どこのスタジオの講師なのか、それともプロの歌手なのか、わたしも興味があって尋ねたのだけど、水戸さんははぐらかして答えてくれなかったわ。冗談なのか、『わたしの先生は、音楽の天使です』なんて言ってたわ」

 琴吹さんが肩をびくっと震わせた。恐ろしい言葉を聞いたように、目に怯えを浮かべる。

「どうしたの? 琴吹さん」

「な……なんでもないよ」

 スカートの端をぎゅっと握りしめ、苦しそうに声を押し出す。なんでもないようには見えないのだけど……。

「主役にも選ばれて、本当に、これからだったのにね。プロとしてもやっていける力を持った子だったのに」

 粧子さんはやり切れなさそうに、煙草を灰皿に押しつけた。

「ごめんなさい。そろそろ学校に戻らなきゃ。井上くん、携帯を貸して」

「あ、はい」

 差し出すと、慣れた調子でボタンを操作し、返してよこした。

「わたしの番号とアドレスを入れておいたわ。水戸さんのこと、なにかわかったら連絡をちょうだい。わたしもそうする」

「ありがとうございます。あのっ、できたら水戸さんのクラスメイトにも、話を聞きたいんですけど」

「わかったわ。明日またこの喫茶店に来てくれる?」

 伝票を持って立ち上がり、粧子さんはふと思い出したように言った。

「ねぇ、井上くんたちは聖条だったわね。マリちゃんは、元気にしてる?」

「毬谷先生と、お知り合いなんですか?」

 粧子さんの口元が、ほころぶ。

「大学の後輩よ。マリちゃんはわたしたちの希望の星だったのよ。そりゃあ軽やかで澄みきったテノールで。日本を代表するオペラ歌手になるだろうって、言われてたのよ」

「毬谷先生は元気だし、とても楽しそうですよ。この前も『一杯のチャイがあれば人生は素晴らしい』っておっしゃってました」

「相変わらずね。彼、パリに留学中に、いきなりどっか行っちゃって、一年後にけろっとした顔で帰ってきたのよ。髪はぼさぼさで、日焼けして真っ黒な顔でね。あちこち旅行して来ました、ただいま、とか笑いながら言っちゃって、本当に人騒がせよね」

 おだやかな優しい顔で言い、

「水戸さんも、そんな風に、笑顔で戻ってきたらいいのにね」

 とつぶやき、粧子さんは店を出て行った。

 外は、北風が吹いていた。

 通りのウインドウには、赤や金色のリボンや、白い綿で飾られた商品がディスプレイされている。もうじきクリスマスなのだ。

「琴吹さん、〝音楽の天使 ? って、なんのことかわかる?」

 正面から吹きつけてくる風にマフラーが飛ばされないよう、手でしっかり押さえながら尋ねると、同じように前のめりで歩いていた琴吹さんが、ためらうような素振りを見せたあと、歯切れの悪い口調で答えた。

「……『オペラ座の怪人』のことだと思う」

「『オペラ座の怪人』って、ミュージカルの?」

 テレビのCMで見た、顔を仮面で隠した黒い服の男を思い浮かべる。

 琴吹さんは、苦しそうに「うん」と、うなずいた。

「夕歌はあのミュージカルのファンで、原作も何度も読み返してた。あたしに貸してくれたこともある。その中に、ヒロインの歌姫にレッスンをする〝音楽の天使 ? が出てくるの。夕歌は前から、自分も〝音楽の天使 ? に会えたらいいのにって言ってたんだ」

 琴吹さんはマフラーに、顔を半ば埋めるようにして震えている。

「それにね――」

 声をひそめて語る様子は、まるで〝音楽の天使 ? を恐れているようだった。

「今年の夏休みに、夕歌から、ヘンなメールをもらったの。『ななせ、わたしは〝音楽の天使 ? に会ったのよ』って」

 耳元を鋭い風が通り過ぎていった。獣の遠吠えのような冷たい風の音が、琴吹さんの言葉を千切ってゆく。

「そのあとも、天使のことを話すときは、いつもテンションが高くて、『天使があたしを、楽器のように歌わせてくれるのよ』とか、『天使が、空の向こうへ導いてくれるの』とか……酔っぱらってるみたいで、普通じゃなかった」

「水戸さんから、その人の名前を聞いている?」

 琴吹さんは首を横に振った。

「ううん」

 そうして唇を噛み、急に目に強い怒りを灯し、険しい声で言ったのだった。

「……けど、夕歌は、天使と一緒にいるんじゃないかと思う」

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